隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ 4話


※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 湯冷めた頃に 4 ~

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「だって。愛羽さんがそうやって色気振り撒くからだよ」

 ワントーン落とした声が掠れて、やたらとセクシーなことに、雀ちゃん自身は絶対気が付いていないくせに、わたしばかりを責めるように彼女はそう言った。

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 伏せていた目線をあげて、雀ちゃんの顔を窺う。と、バチリと衝突した視線が火事でも起こすかと思った。
 だって、少しだけ茶色の混ざる色素薄めのその瞳が、やけに、熱を帯びているから。

「な、…で」

 なんで、と言いたかったのに、瞳の熱さに気圧されて、すんなり声が出なかった。
 怒っているのは少し違う、なにか、情動を抑えきれない様子の雀ちゃんの手がこちらへ伸びてきて、怯む。

 さっきまで、優しかったその手が、服の前をかき合わせている手を掴んで外させる。

「なんでじゃないよ。こんなエロいカッコしてんのに、自分には色気が無いとか言うつもり?」

 シャツが開いて露わになった鎖骨あたりの肌が、チリチリと焼けるような感じを受ける。

 ――雀ちゃんの視線が……熱い……。

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 見上げるわたしと視線が絡まない。彼女の視線の先は、はだけた胸へ向いている。
 キャミソールと下着とを透視できるのならしたいとでも思っていそうな目がジリジリと視線をあてていく。

「エロすぎ」

 責めるような響きを言葉にもたせて吐き出した雀ちゃんが、止める暇もなく、わたしの首筋に顔を埋めた。
 肌に口が触れる感触が伝わってきたと思ったら、次の瞬間には引っ張られるような感覚。

「ちょっ…!?」

 何をしようとしているのか咄嗟に理解して、体を後ろへやる。雀ちゃんは今、明らかに、首に、キスマークをつけようとした。

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 普段なら絶対に、首に、見えるような所に、それを刻印しようなんてしない。
 驚きと共に彼女を見下ろせば、恨みがましい目がこちらを見返す。

「駄目?」

 そ…んな、捨て犬みたいな目で。

「……だめ」

 さっきまで焼けるかと思うくらい熱かった瞳が、今は冷や水をぶちまけられたみたいにしゅんとしている。そんな子に、禁止の言葉を投げるのはどこか罪悪感を覚えてしまうけど……社会人として、いい年した女として、見える場所にキスマークつけて歩くのはわたしには出来なかった。

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「……じゃあ、こっちは?」

 雀ちゃんが人差し指をピトリとあてがったのは、鎖骨からもっと下へおりた、丁度キャミソールに隠れるか隠れないかの辺り。
 そこならば、シャツを脱ぎでもしない限り、誰かに見られる事もないだろう。

「いいよ」

 キスマークの許可。
 今まで、雀ちゃんとわたしはなんとなく暗黙の了解で、それをつけても許される領域とそうでない領域とを判断してきた。
 服を着たときに隠れる場所ならキスマークはつけていい。見えるところはダメ。

 はっきりとそう宣言したことは無かったけれど、暗黙のルールのもと、相手への刻印をしてきたと思う。

 今更、了解を得る雀ちゃんはどんな気持ちなんだろう。
 ゆっくりとわたしの胸元へ顔を寄せていく彼女を間近に見下ろして、その心中を想像してみたけれど、よくわからなかった。

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 ちょうど、胸の膨らみのカーブが始まるあたりに唇を押し当てた雀ちゃん。やっぱりそれは柔らかくて、ぷにっとしている。肌に押し付けているせいで形を変えている様を見下ろしながら、妙に、心臓がどくどく言い始める事に気が付く。

 一瞬だけ、自分の心音に気がいったその間に、雀ちゃんの両腕がわたしの体に回された。
 腕がわたしを抱き締めて、吐息が漏れる。べつに、抱きつぶされた訳ではないのに、口から零れた息。

 ――だめ。

 脳が、この後に訪れるであろう快感を、察知してしまう。

 ――気付いちゃ、だめ。

 否定の意思を持った時点で、何に対してそう思っているのかは明白に理解しているのに、わたしは知らんふりをしようとする。

 でも、出来ない。

 身体が、感覚を、快感を、刻み込まれているから。

 逃げられないよう抱き締められ、柔らかい唇を押し付けられ、目を伏せた彼女が僅かに力んだ瞬間、走る痛み。
 甘くて、あまくて、鋭い痛みが走ったあとには、紅く艶やかに濡れた花が咲く。

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 伏せていた瞼がゆるりと持ち上がって、咲いた花を愛でるように見つめ、舌先でチロリと撫で離れる雀ちゃん。
 何かを確認するようにこちらへ昇ってきた視線。その瞳が、ゆるく相を崩す。

「やっぱり。唇、噛んだら駄目だってば」

 仕方がないなぁ、なんて言いそうな瞳が見るわたしの口元。
 たかだか、キスマークひとつ付けられたくらいで快感が走ってしまうこの身体から、声が漏れないよう唇を噛みしめていた。
 力を抜くように雀ちゃんの親指に促されて、やっと解放し、詰めていた息もゆっくりと吐き出す。

 それでも一度身体に渦巻いた快感の残り香が抜け切らなくて、わたしは助けを求める視線を、雀ちゃんに送った。

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