隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ 26話


※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 湯冷めた頃に 26 ~

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「あの時って?」

 問い掛ける雀ちゃんの声は、静かで、優しい。

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 優しいのは声だけではなくて、わたしの髪を梳く手もだ。

「温泉旅行のとき」
「あぁ、のぼせたやつですか?」

 それもそうなんだけど、それだけじゃなくて。と、わたしの口は語る。
 自分としてはこの事について話をする心の準備がまったく出来ていなかったのに、雰囲気とのぼせた頭のせいでか、勝手に話は進んでいった。

「夜、食事の時に、お酒飲むの渋った雀ちゃんを焚き付けて、飲ませたでしょう?」
「……」
「いつも外で食事する時、未成年だからってお酒飲まないのに……。あの場で無理言って飲ませて。ごめんなさい」

 バーというお酒とは切っても切り離せない場所がバイト先であっても、「自分は未成年だから」ときっぱり断るのに。
 恋人の立場を利用して、”雀ちゃんと一緒にお酒が飲みたい”という自分の欲求を満たすために彼女に呑ませた。
 彼女のポリシーを打ち砕いてまで。

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 雀ちゃんの顔も見れずに、言った後の彼女の反応を窺う勇気すらも出せずに、俯いて青のラベルを見つめる。
 わざわざペットボトルにストローまで挿し込んでくれた彼女の優しさが、今となっては胸に痛い。

「もしかして、それ、ずっと気にしてたんですか」

 固い声がそう問いかけてきて、やっぱり顔も上げられずにそのままの姿勢で小さくこくんと頷いた。

 雀ちゃんからしてみれば、ずっと気にしているくらいなら早く謝ってほしかったという感じなのだろうか。いやそれどころか、もう、今更謝っても遅いと思われたかもしれない。

 のぼせた頭がパンクしそうなくらい、悪い考えが渦巻いて思わず涙ぐんだその時だった。

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「ねぇ、愛羽さん」

 わたしの手からするりとペットボトルを抜き取った雀ちゃんは、二本のペットボトルをテーブルに置いて、わたしの肩に手を添えて、向き合うように体の向きを変えた。

 ソファの上に両脚をあげて体ごと雀ちゃんの方を向いたわたしと、同じくソファの上に足をあげてこちらを向いた彼女は視線を絡める。
 その瞳には怒の気配なんてまったく感じられなくて、わたしは少しだけ安堵した。

「愛羽さんは勘違いしてます」
「…?」

 なんの勘違いをしているのか見当もつかなくて、わたしは彼女の言葉を促すように首を傾げた。

「私はそんなに常識的で良識的な人間じゃないですよ?」

 恋人をのぼせるくらいまでお湯につけて性欲を満たすくらいには不良ですから、と彼女は自分自身に苦笑した。

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「いつも私が外でお酒を飲まないのは、一緒に居る人達やお店の人に迷惑をかけたくないからですよ」
「だからそうやってちゃんとルールを守ってきたのにわたしが」
「今まで怒られると思って言わなかったですけど」

 雀ちゃんはわたしの台詞を、少し強めた口調で遮った。
 まっすぐにわたしを見つめていた目がちら、と泳いだけれどもすぐに戻ってきて、こちらを再び見据えた。

「大事な人が居ない席では、普通に外で酒飲んでます」

 きっぱりと、はっきりと、そう言い切った雀ちゃんの雰囲気に気圧されて、なんだか彼女が正しい事を言っているように思えた。

 けど、その言葉の意味をよくよく考えると……。

「え!? 駄目じゃない!」
「はい。だからずっと隠してました」

 あっさりと、彼女は悪事を白状した。

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