隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ 25話


※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 湯冷めた頃に 25 ~

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 雀ちゃんは髪に触れるのが好きだと言ってくれた。

 わたしは、貴女に触れられるのが大好きよ。

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 耳に届くドライヤーの音。
 どうやら、スカルプモードで乾かしてくれているようで、頭皮に届く熱はほんのわずか。それどころか、肌を風が撫でていくおかげで、髪を乾かすと同時に体温も少しずつ下げてくれる。

 時折、雀ちゃんから渡されたスポーツ飲料水を口に運ぶ。
 自覚はあまりなかったけれど、意外と喉が渇いていたようでペットボトルのもう半分以下まで内容量は減っていた。

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 雀ちゃんが髪を触るときの手つきは非常に優しい。
 性格がそのまま手つきに表れているようで、根元から掬い上げて、少し左右に揺らしながら毛先までドライヤーをあててくれるその一連の動作が、眠気を誘うほどに柔らかい。

 どうやったらこんなにも優しい性格の子が育つんだろうと、雀ちゃんのご両親と、これまでの友人関係に感心する。

 それに比べて、いい年したわたしは、お風呂でのぼせた挙句、彼女に何から何まで世話をさせて、自分はソファに寝転がって……ほんと、このお詫びはどうしようかしらと悩む。

 どこかいいお店へ外食? ううん、そんなのじゃ足りない気がする。
 何かプレゼント? ううん、誕生日でもないのにそんな事したら、彼女の事だから遠慮しちゃいそう。

 うーん。どうしたらいいかしら。

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「なんでそんな難しい顔してるんですか?」

 ドライヤーのスイッチを切ったせいで、部屋に静けさが戻る。
 ありがとう、ごめんね。と、とりあえず彼女に伝えて、体をゆっくりと起こす。

 随分と体温が下がったおかげでか、クラクラするのはなくなった。が、油断は禁物。

「雀ちゃんにとっても迷惑かけてるから、お詫びにどうしようかなと思って。何か欲しいものとかある?」

 ドライヤーのコードをまとめていた彼女が、慌てたようにこちらを見上げて、首を振った。

「いいですよ、そんな。愛羽さんがのぼせたのは私がお風呂で襲ったからですし」

 ベッドまで待てなくて…すみません。と後ろ頭をかいて、自分の性欲を恥じるように苦笑する雀ちゃんだけど、それじゃあわたしの気が済まないのよね。

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 わたしの髪を乾かすために床に座っていた雀ちゃんが立ち上がり、ドライヤーと櫛をテーブルに置いて、代わりに蓋の開いてないスポーツ飲料水を手にとって、わたしの隣へと腰掛けた。

 ペットボトルの蓋を捻って開けて、がぶがぶと飲む彼女も、実は喉が渇いていたのだと知る。
 そんな事にも気を遣えず、自分だけ飲ませてもらって……ああもう自己嫌悪が過ぎて余計落ち込みそうだわ。

「温泉旅行の時といい、今日といい、のぼせたわたしの世話させすぎよねぇ……雀ちゃんには」

 独り言のように言ってみると自然とその後に溜め息がついて出た。

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「私が好きで世話してるんだからいいんじゃないですか?」

 肩を落として、汗を刷いたペットボトルを指先で撫でていると、隣から伸びてきた手に頭を撫でられた。
 その世話をしている……というかさせられているのは自分なのに、まるで他人事のように言う雀ちゃんは今し方乾かした髪の手触りを楽しむように手櫛で何度も梳く。

 その手が優しければ優しい程、わたしの胸には申し訳なさが込み上げてきて、自分の落ち込みように、頭の隅の冷静な自分が”あれ、生理前だったっけ?”と首を傾げた。

 どことなく情緒不安定な自分に、軽く動揺したわたしは雀ちゃんの手に髪を撫でられるままになる。
 自分の心が落ち着くまでは、下手に口を開かない方が得策だと思ったのだ。

 なのに。

「ごめんね」

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 勝手に、口が喋る。

 雀ちゃんの手は相変わらず、何度も何度も髪を梳いていて、わたしの言葉に何を思っているのかは図れない。
 そのせいだろうか。
 わたしの口がもっと喋りたがってしまったのは。

「あの時のことも、ずっと……謝らなきゃって思ってたの」

 相手の心理が分からない状況に、わたしは余り慣れていない。
 仕事であれ、プライベートであれ、話し相手がどう考えているのか、こちらが言う言葉でどう思考が動いていくのか、わたしにとってそれは想像に易いこと。

 だから商談だって上手くまとめられるし、交際だって長続きしやすい。

 でも、今の雀ちゃんが何をどう考えているのか。
 わたしがこれから言う言葉で、どう感じてしまうか。

 のぼせた頭では、その答えの欠片すら見つけられなかった。

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