隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ 24話


※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


←前話

次話→


===============

 ~ 湯冷めた頃に 24 ~

===============

 当然の結果だ。

===============

 ―― のぼせた。

 いま、心の底から全世界の人に忠告したいことは、お湯の中でえっちなんかするもんじゃない、ということ。

 のぼせる。ほんと、脳みそが溶けたんじゃないかと思うくらい見事に、のぼせた。

 お風呂からあがるために立ち上がった途端、立ちくらみ+足を滑らせるというコンボを発動したくらいだ。

 雀ちゃんが用心してわたしの腕を掴んで支えてくれていなかったら、今頃浴槽の縁に頭をぶつけて裂傷を作って、救急車で運ばれている頃だろう。

===============

 雀ちゃんに抱えられて、お風呂を出て、脱衣場でも壁に手をついていないと立っていられないくらいクラクラでふらふらで、恥ずかしいことに彼女に体についた水滴を拭いてもらったくらいだ。

 それから下着とキャミソールだけ身につけて、ソファに転がっている。
 濡れた髪の下にタオルを敷いてソファが濡れないようにしながら、仰向けになっているんだけど体は動かしていなくても、頭がグルグルする。

 船酔いにも似たような感覚に耐えていると、足音が近づいてきた。

「愛羽さん、起きられます?」
「うー……ちょっとむり」
「やっぱり」

 少し困ったような声。
 わたしがのぼせた原因の一端は雀ちゃんにもあるのだから、そりゃあバツも悪いだろう。

===============

 気にすることはないのよ、と伝えたいけれど、今はあんまり上手く喋れない。
 閉じていた瞼を開けると、すぐ隣に雀ちゃんがいて眉尻をさげて、心配そうにこちらを見下ろしている。

 雀ちゃんはお湯に浸かっている時間と面積が少なかったせいか、のぼせてはいないようで、かいがいしくわたしの世話をしてくれている。

「じゃあ、顔を横にむけてください」

 すっかり敬語に戻った雀ちゃんは氷を入れたコップにミネラルウォーターを注いでストローをさしたものを、わたしの顔に近付けてくれる。
 今はマナーがどうとか、はしたないとか、言ってられなくて、曲がるストローを咥えて、冷たい水を喉に流し込んだ。

===============

 食道の位置が分かるくらいに冷たいミネラルウォーターが胃まで辿り着く。体を中から冷やす作戦らしい。
 わたしが5回喉を鳴らしてストローを口から離すと、雀ちゃんはにっこり笑った。

「よく飲めました」
「……」

 わたしが何かを言い返す前に、彼女の手が濡れた髪をぽんぽんと撫でて、つい、口を噤む。
 そんなふうに優しくされると、子ども扱いされた事も含めて、まぁいいかなんて思ってしまう自分の現金さ。

 目元を優しくしたままわたしから視線を外して、雀ちゃんはテーブルへコップを置き、立ち上がる。目で彼女を追うと、わたしの視線に気付いた彼女はまた、頭をぽんと撫でてくれた。

「ちょっと待っててくださいね。飲み物買ってきます」
「え」
「すぐですから」

 さすがに驚いて声をあげたわたしに、そう言い置いて、雀ちゃんはジャージのままで財布と鍵だけを持って玄関へ向かって行った。
 滅多にジャージ姿で家から出て行かない彼女がこのタイミングで、あの恰好で出ていくというのはつまり……スポーツ飲料水を求めて出ていったのだろう。

 お水でいいのに、なんてわたしは思うけれど、真面目な雀ちゃんはそうもいかないと判断したのだろう。幸い、このマンションを出たすぐの所に自動販売機があって、確かそこにはスポーツ飲料水が売っていた記憶がある。

 売り切れてなければいいんだけど。と胸中で呟いて、わたしはまだ火照る体の熱を逃がすように、ふぅと息を吐いた。

===============

 ほんの数分で雀ちゃんは戻ってきて、手にはやっぱりラベルが青色のスポーツ飲料水を持っていた。しかも3本も。

「ごめんね、ありがとう」

 いやいやなんのこれしき、みたいに首を振った雀ちゃんの息が、かすかにあがっている。わたしのために急いで行ってきてくれたと思うと、嬉しいやら申し訳ないやらで彼女の顔をまともに見れなかった。

「愛羽さん、ソファの肘置きの所に頭乗せられますか?」
「ん、なんとか」

 軽く上体を起こしてタオルをひじ掛けに敷き直してそこへ頭をのせる。すると蓋をあけてストローを差し込まれたペットボトルを手渡された。

「何から何まで申し訳ないわ……」

 大人として、年上として、これはいかがなものだろうかと、肩を落とすわたしに、雀ちゃんは笑いながら「私の所為だし、気にしないでください」と優しく宥めてくれるのだった。

===============

「しっかりそれは飲んでてくださいね」
「はぁい」

 返事に満足そうに頷いた雀ちゃんは、わたしの頭の下に手を差し込んで、頭の下にあった髪を上へとかき上げた。
 そうされると、真上から見れば髪の毛が全て逆立った状態。タオルの上にゆっくりと頭を戻され、わたしは雀ちゃんの意図が解らずに首を傾げた。

 あぁだめ、頭傾げたらクラクラする。

「髪の毛、乾かしますから」
「えっ、い、いいよそこまで」

 彼女の言葉に慌てすぎて手元のペットボトルをぶちまけそうになる。だ、だめだめ、これ以上雀ちゃんに迷惑をかける訳には。

「でも風邪ひいても困りますし、愛羽さんはしばらく動けそうにないですし。愛羽さんの髪の毛触るの好きですし」

 うれしそうな声と共に、ドライヤーのコードをコンセントに刺す音。

「それ飲みながら、ゆっくりしててください」

 …………ほんと、大人として、自分は駄目だと思う。

 それと、この子は本当に、年以上に大人だと改めて思った。

===============


←前話

次話→


※本サイトの掲載内容の全てについて、事前の許諾なく無断で複製、複写、転載、転用、編集、改変、販売、送信、放送、配布、貸与、翻訳、変造などの二次利用を固く禁じます※


コメント

error: Content is protected !!