隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ 14話


※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 湯冷めた頃に 14 ~

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 好きな人を気持ち良くしてあげたい。

 それは当然の心理だと、わたしは思っている。

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「っ、ぃはさん……」

 雀ちゃんが奥歯を噛みしめたまま、唸るよう小さくわたしの名前を呼んだ。
 荒くなりそうな呼吸をなんとか抑えて、引っ込めたくなる手をなんとかそのままにして、与えられた快感に抗っている雀ちゃん。

 さっきまでわたしを攻め立てて、追い詰めて、喘がせていたくせに。
 自ら、自分の手を舐めろと、暗にこのあと挿入する事を想像させるような形を作ってわたしの口の前に突き付けてきたくせに。

「……ッはぁ……ッ」

 堪らなそうに、荒っぽく息を吐くだなんて。

 かわいいにも程があるし、こちらの気持ちにもなってみて欲しい。

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 そんな雀ちゃんの状態を見せ付けられると……そりゃあもちろん、もっと苛めたくなるってものだ。
 多分、わたし達はふたりとも、「逃げられると追うタイプ」なのだと思う。あと「嫌がられると燃えるタイプ」でもある。

 いつだったか、雀ちゃんが言っていた。
 いや、とか、だめ、とか言われると余計燃えるって。

 えっちされる側の状態だと、「これ以上されたらおかしくなるからダメ」って言って限界を訴えてるのに、その言葉で余計燃え上がられて困ったりするんだけど……。

 反対の立場にこうしてなってみると、雀ちゃんのそのときの気持ちがよく解ってしまうのだ。

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 噛みしめた歯の隙間から、息が漏れた。そんな表現がしっくりくるような音を頭上に聞いて、わたしは我慢できず、そちらにチラと目をやった。
 もちろん、彼女の手に舌を触れさせたまま。

 赤いのは、頬だけじゃなかった。目元や首、耳まで染めあげて、やっぱり歯は食いしばっている。眉はハの字。切なそうに寄せられた両眉頭が彼女がどれほど快感と抗っているのか窺えて、わたしの口元には笑みが浮かんでしまいそうになった。

 でも、だめ。

 自分を叱咤して、わたしは再び目を伏せる。

 あんな顔を見せられたんじゃあ、余計、苛めてあげないと駄目だと思ってしまう。

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 手の平の皺をなぞっていた舌先は、何度か感情線を行き来していた。中指の下辺りからすぅと伸びる運命線は感情線と交わる部分がある。
 感情線よりは濃くない運命線へターゲットを変えて、中指の根元から手首へ向けてほぼ真っ直ぐに下りてゆくわたしの舌。

 それに合わせて上から聞こえる呼吸が、大きく乱れる。

 あぁもう、可愛い。
 感情線への刺激に慣れた頃に、運命線へ移り変わられて、動揺しているのかしら。
 どうしてこうも素直に、わたしの心をくすぐってくれるの。可愛くて仕方ないわ。

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 手を舐められるだけでこんなにも人は乱れるのか、と思うならば、試しに自分の手を舐めてみるといい。それに抵抗があるならば、自分の左手を、右手の指でゆっくりと撫でてみるといい。

 分かりやすくするなら、爪の先でそっと触れるか触れないか程度の力加減でやってみると尚、良いかもしれない。

 そして手の平には無数の皺がある。占い師はこの皺を見て手相占いをする。その人の人生が刻まれたその皺には何らかの意味があるというのが一般的な解釈だけど、わたしはこの皺は、快感のツボでもあると思う。

 だって、皺の深い部分…例えば感情線をつぅと横へ辿ってみるのと、指の付け根の比較的皺の無い部分を辿ってみるのとでは、随分と受け取る快感が違うようだから。

 やっぱり、皮膚の薄さが関係しているのか、皺の部分を舐めるほうが、雀ちゃんはより良い反応をしてくれる。

「……っあ」

 運命線を何度か往復して、手首の内側までねっとりと舌を這わせた頃、ようやく、雀ちゃんは喘ぎ声らしい声をあげた。
 ついに、歯を噛みしめていることも難しくなったようで、はぁはぁと口呼吸する音が耳に届いた。

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 手首の内側は脈を測れるくらい血管にも近いし、皮膚も随分と薄いのだろう。明らかに感じているような声を漏らし始めた雀ちゃんの可愛さに内心悶えるばかりだが、そう簡単にはいかせない。
 いや、イかせる、とかじゃなくて。

「…ん、ぅ……はっ……」

 手首の内側の親指に近い側から伸びる湾曲を描く皺。生命線。その僅かな窪みを舌先で探り当てたわたしは、彼女の小さな喘ぎ声をBGMにゆっくりと指先方向へ向けて生命線を辿っていく。
 この先、何があるかわからない。けれど、今現在、わたしはこの雀ちゃんと一生を添い遂げてもいいと考えている。

 だから、この生命線が示す彼女の残りの一生を、傍で遂げたい。そう願いながらも、ゆっくり、ゆっくり、撫でるよう、愛おしむよう、線を辿った。

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