※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 湯冷めた頃に 12 ~
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「濡らせって意味じゃなくてね」
水気ならたっぷりここにあるし、と突き付けられていた指がすっと下へ向かって、水面を揺らした。
「舐めて、って、言ってるんだよ」
目の前に戻ってきた手に、わたしはまた、ゴクリと喉を鳴らした。
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鋭いのか、甘いのか、分からなくなるような声音。
そんな事を思いながら、わたしは両手で、雀ちゃんの手を取った。
彼女の手は手の平を上に向けて、親指、薬指、小指を曲げて、人差し指と中指をゆるやかに伸ばされた状態だ。両サイドから包み込むみたいにして下から手を添えたわたしは、ゆっくりとその二本の指先にキスをした。
下唇がかすかに爪に触れて固い感触を覚える。それを頼りに舌を伸ばして小さく舐めてみると、やけにツルリとした食感だった。いや、食べてはいないから触感なのだろうか。
爪を舐める事自体そんなに経験するものではない。爪がこんなにもツルツルだったのかと驚きながら、2、3度その感触を楽しむ。
そうしたあとに、立てた指同士は寄り添わせているけれど、どうしても手の構造上指と指の間に出来る窪みに舌先を捻じ込む。その窪みの形状を確かめるみたいにくにくにと舌先で撫でまわして、ゆっくりと離れた。
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雀ちゃんとの指先と、わたしの覗かせた舌先とを唾液が繋いで、プチリと切れた。
そこで一度息を吐いて、呼吸を整える。
けれど、ゆっくりしていると催促されかねない視線を肌に感じて、また指へと舌を伸ばした。
雀ちゃんの手の指の中で一番長いのは、中指。そこの先っぽに舌をあてて、顔を傾けて側面をつー…と舐めてゆく。指の節は少しだけ膨らんでいて、そのすぐあとは窄まっている。そしてまた節がきて、根元へと到達する。
折り曲げてある薬指が口元へあたっているけれど気にせず、それまでより少し長く舌を伸ばして、中指と薬指の間。指の股をまるで掃除するみたいに丹念に舐めた。
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――掃除。……そう、掃除ね。
頭の中に浮かんだその言葉に、この行為はそれに似ていると後からきた思考が賛同する。
けれど、手を舐める行為を掃除だなんて言うと、雀ちゃんの手が汚いみたいに思えてしまう所が難点。
映画や漫画なんかでよく聞くセリフだけれど、恋人の身体のどこをとっても汚いなんて思わないわ。
そりゃあ、泥で汚れたりしていれば汚いと思うけれど、そうじゃなければ、舐める事も別段厭わない。
仮に、雀ちゃんの手にチョコレートでも塗ってあってそれを舐め取る行為だと想像すると、掃除の言葉よりは聞こえがいいかもしれない。
指の股からまた側面を辿って中指の先端へ戻ってきながら、わたしはそんなことを考えた。
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また余所見、なんて思われちゃかなわないから、耐えず舌を動かす。
さっきの余所見は雀ちゃん以外のことを考えていたのだから叱られても仕方ないと思えるけれど、今度の余所見は雀ちゃんの事を考えているのだから謂れのないお叱りはご免だ。
中指から隣の人差し指に移り、中指のときと同じように側面の僅かなでこぼこを感じながら、指の股を目指す。
人差し指と親指の間はずいぶんと距離があるのを感じながら、顔を傾けて、雀ちゃんの手首を引き寄せるように引っ張りながら舐めていく。
指の股と言える部分まで舌が辿り着くと、すこし皮が余ったような触感を覚える。親指を曲げているから、こんなふうに皮がたるんだようになってしまうのね、とどこか冷静に分析しながら、皮の皺まで丁寧に舐めた。
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そのまま人差し指の側面を舐め戻りながら、雀ちゃんの手首にあてている手に意識をやる。丁度、病院なんかで脈を測るときに指をあてる部分にわたしの指が触れているから、雀ちゃんの脈がどうなっているのか、知れたらいいなと思って、すこーしだけ、強めに指を押し当てた。
そうしながらもちろん、舌は動かし続けておくけれど。
――あった。
素人でもここの脈は意外と見つけやすいのかもしれない。
小さく、トクトクトクと指を押し返してくる彼女の脈動。多分、平常時よりもすこしだけ駆け足な気がする。
もしかして……自分で舐めさせておきながら、興奮してる……とか?
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まさかね、なんて思いながら、それまで伏せていた目で、彼女の顔を見上げてみる。
「う」
はっきり、聞こえた。
お風呂独特のエコーがかかった、彼女の声を。
――確実に、雀ちゃんは興奮してる。
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