※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 湯冷めた頃に 11 ~
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口に指を入れられて、唇を閉じることを許されない。
この状況はすなわち、喘ぐ声が全て漏れ出てしまう、ということだ。
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わたしの口内へ指を侵入させる事に成功した雀ちゃんは、まるで内緒話でもするかのように耳打ちする。
「あんまり動くと抜けちゃうから、じっとしてて」
耳の穴へ囁かれた声が色っぽくて、思わず逃げるように顔を背けたかったけれど、その動きを察知した雀ちゃんの指が、わたしの舌を上から押さえつけた。
苦しくはないんだけど、思わず「ぅぐ」と唸る。
「動くなって言うのに動くからだよ」
呻き声を聞きつけた雀ちゃんはどこか見下したような声音で言う。わたしが逃げる気配を失くすと、ゆっくりと指の力を抜いてくれるあたり、優しさはあるようだけど、さっき一瞬だけ過ぎった加虐的な香りがまだ彼女から漂っていた。
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普段温厚な彼女から加虐的な気配がしたことに妙に動揺して、ゴキュリと生唾を飲み込む。舌の上にある指に動きを阻害されながらもなんとか溜まっていた唾液を飲み下して、口の中に異物があるとこんなにも嚥下が大変なのかと思い知る。
「そういうのも、なんかエロイね」
今の雀ちゃんにとって、わたしがえっちな行動をすること=褒める、という方程式があるようで、いい子だ、なんて言ったあとにご褒美である快感を与える為に、舌を耳の中へと捻じ込んできた。
「はっ、ぁ…あ」
ぐじゅりと湿った音で頭がいっぱいになった。
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「耳弱いもんね?」
耳の穴を犯しきった後、愉しそうに雀ちゃんが笑う。その吐息が粘液質な液体で濡れた耳朶を擽って、わたしはまた首を竦めた。
「そういう反応されると、可愛いくて仕方ないんだけど。やっぱり狙ってやってるの?」
そんな訳ない。首を竦めるのだって、ただの条件反射だ。冬に寒ければそうするようなものなのに、雀ちゃんはわたしが計算高い女のような言い方で詰る。
反論したくても、口の中の指で出来ない。
いっそ噛みついてやろうかとも一瞬思ったけれど、その後どんな仕返しが待っているか想像するだけでも恐ろしいので、身の程知らずな計画は破棄した。
大人しく首を横に振る。指を咥えたままなので、それが抜けてしまわないように小さくフルフルと。
「狙わずにやってるってなると、さらにかわいさ満点なんだけど」
生粋のタラシかもね、と低い声がわたしを詰る。
ど、どうしてわたしがタラシにならなきゃいけないの! と思う反面、随分と昔の記憶がふっと頭の片隅から転がり出てきた。
『お前の仕草とかって無性にムラムラするんだよな』
あれは確か……前の前の彼氏だったかしら……。わたしが何かする度にそんなことを言われていた記憶がある。
その時は、貴方好みの仕草をする女だから好きになったんじゃないの? と思っていたけれど、同じようなセリフを投げ掛けられると……なんだか、わたしが”そういう行動をする特殊な部類”なのかもしれない、なんて考えが湧いてくる。
「ねぇ。余所見していいって誰が言ったの?」
思考に耽っていると、突然、言葉と共に、口の中の指がぐっと押し込まれた。
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「ん、ぐ」
喉の奥にものが来ると、嚥下反射が起きるのは人間の体の構造や仕組みだ。そして、それで処理しきれなかったものがあれば、嘔吐反射が起きる。
嚥下反射の先にあるものをなんとか堪えようと苦労していると、指が引かれて、口腔外に出された。わたしの唾液がたっぷりと絡んだ指と、わたしの唇に銀糸が渡り、じきにプツリと途切れて湯船に波紋を呼んだ。
「良い度胸してるよね。余所見とか」
酔っているせいなのか。意地悪を言う時の雀ちゃんよりも冷たい印象を受ける声音で、彼女が言う。
余所見、というけれど、わたしの視線はずっと彼女にあてていた。けれど、思考が完全に逸れていた事を、雀ちゃんはしっかりと見抜いていたのだ。
確かにわたしだって、会社で部下に指導しているとき、様子を見ていれば「あ、今この子はわたしの言葉聞いてないな」って勘付く場面もある。
だから、雀ちゃんがわたしの余所見に気付くことも、なんら不自然ではない。
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「さっきまで、腰揺らして欲しそうにしてたくせに、いらないんだ?」
「ちが……っ」
ちがいます、その指が欲しいです。なんて、恥ずかしくて言えるはずもなくて、口籠る。
わたしの体内にアルコールがたくさんまわっていて、理性が無い状態なら羞恥も湧かずに雀ちゃんにねだる事も出来ただろうに、今日の会食では一滴もお酒を飲まなかったせいで、素面も素面だ。
取引先の人に「あなたも一杯どうです?」と言われたときに、断らずに飲めばよかったと数時間前の自分を呪った。
「ちが? 何? 違うって言いたいの?」
わたしの言葉の端を取り上げて、真意を問う雀ちゃんに、小さく顎を引いて頷く。
それすなわち、貴女の指をアソコへ入れて欲しいの、と言ったことと同じだ。恥ずかしくて、雀ちゃんの顔を見ていられなくて、視線をお風呂の壁のタイルへと逃がした。
「ふぅん? 欲しいんだ? なら、舐めてよ」
先程までわたしの口の中にあった指が、ずいと唇の前へと差し出された。いや、差し出すというよりは、突き付けるという表現のほうが適切かもしれない。
まだ残っているわたしの唾液でてらりと光るその指に視線をあてて、わたしは生唾を飲み込んだ。
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