※ 隣恋Ⅲ~夕立騒ぎ~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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彼女の吐息でさえ、私の脳には危うい程に響く。
けれど私はそれ以上のものを求める。
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~ 夕立騒ぎ 7 ~
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胸元の服を愛羽さんにぐいと引かれて、そのまま、キスをする。
すぐにでも舌をねじ込んで彼女を思う存分味わいたいくらいだった。けれどはじめは、ゆっくり触れるだけの口付け。
触れて、離れて、それだけ。
私がどうしてそれだけにしているのかというと……彼女の様子を窺っているからだった。
先程見た愛羽さんのあの小悪魔の目。
あんな目をしている愛羽さんに今、がっつくようにしてキスをすれば多分……彼女のSの血が騒いでしまうだろうから。
だから大人しくする。今だけは。
今日は私が主導権を握っておきたいんだ。
まるで猛り狂う寸前の虎を相手にしているみたいな感覚だった。
いつこちらに飛び掛かってくるか分からない。だけど飛び掛かりたそうにしている気配だけは十二分に感じる。
どきどきと言うよりも、ドクドクと心臓は打ち、背中はゾクゾクと言うよりも、ハラハラに近い緊張感が覆っている感覚だ。
「ねぇ…?」
「黙って」
もっと深くて激しいキスを、と甘くしなだれかかるような声。私を誘い込もうとするそれにピシャリと返してやると、愛羽さんの目の中の小悪魔が揺らいだ。
この機を逃す訳にはいかない。
怯んだ一瞬は、隙だ。
「して欲しかったらちゃんと言ってください」
ピク、と動いた愛羽さんの眉。
怯んで止まっていた足が、一歩、後退ったイメージが私の脳に湧く。
――もうすこし。
もう少しだけ粘れ、私。
そうしたら愛羽さんは落ちるから。
若干慣れない事をしている自分を励ましながら、私は愛羽さんを見下すように、顎を少し反らせた。
こういう時の参考にするのは申し訳無さを胸に抱くものの、高飛車と言えばこの人だと白羽の矢を立て、私は店長の仕草を思い浮かべつつ目を眇める。
「してください、は?」
「……」
……たぶん店長ならこういうことも遥さんにやってるんだろう。
目撃した訳ではないし、これは完全に私の妄想だけれども。
”たぶん”を脳内で繰り返しながら、黙ってしまった愛羽さんにトドメを刺した。
「愛羽」
「っ」
効果は覿面。
普段呼び捨てなんかしないから、ここぞという時、よく効く。
怯みはしていた。しかしそこには未だ、小悪魔の色が在った。
が、私の一撃で愛羽さんの瞳が、とろりと溶けた。
その変化を見た私が”あ”と思った次の瞬間には、
「キス…してくだ、さい……」
溶けた瞳と、表情が彼女に広がっていた。
自分が言わせた内容なのに、大好きな恋人からの要求に背中がゾクとする。
背中に負っていた緊張感が解れると同時に、熱が込み上げてきた。
期待からか、腹の底に飼っていた征服欲が吠えている。
愛羽さんに「いいよ」答える代わりに唇を寄せ、数回、それ同士を軽く触れ合わせた。
そうしてリップ音すら鳴らない口付けを繰り返していると、いつの間にか、彼女の舌が私の口内へと侵入していた。
「ん…」
顔を傾けながら深くしたキス。鼻から抜けるような甘い声を零す愛羽さんが色っぽい。
もっと近くに。
そう云いたげな手が胸元の服を改めて握り直してくるところがまた可愛い。
先程は引き寄せる為に、それこそ”胸倉を掴む”との表現がピッタリな乱暴さを感じたけれど、今は、それとは全く違う。
瞳を蕩けさせた愛羽さんが、私をより多く求めてくれている。その気持ちが伝わってくるような手にどきりとしながら、私は舌を絡ませた。
……あつい。
あったかい。よりも、あつい。
触れ合った部分が、まるでチョコレートみたいに溶けそうだ。
「……雀ちゃん……」
キスの合間。
囁くように、彼女が私の名を呼ぶ。
その届くか届かないか程の声に応えるよう、私はまた深い口付けを贈る。
ぬるりと滑る舌と舌。
熱いそれ同士が絡まると、部屋には卑猥な水音が広がる。
「……は、ん……」
ちゅうと音を立てて彼女の舌を吸い上げると、愛羽さんの閉じた瞼がふるるとざわめいたのが分かった。
かわいい。
こうして私が攻めるキスをすれば感じているのに、確かに、快感は受け取っているはずなのに、彼女はもっとより多くを求める為なのか、背凭れへ預けていた上体を浮かせるみたいにして密着してくるのだ。
これが可愛くない訳がない。
積極性からは、好意も感じ取れる。
愛羽さんは私を欲しがってくれているんだ。私だけが、がっついている訳ではないらしい。
彼女の仕草から安心材料を探しあてたおかげで私は更に積極的になれた。
愛羽さんの舌を解放して、キスを横にずらし、そのまま、白い首筋にキスを落とす。
「……あ……っ」
ドク、ドクと脈打っている動脈の上に唇を押し当てた。
押し返すみたいにふくふくと唇の下で動く肌に、彼女が生きている証拠を今、世界中で誰よりも得ているのは自分だと認識する。
だけど、足りない。
もっとその脈動を感じたくて、私は唇を開いた。そこへ舌先を押し当てれば、愛羽さんは小さく喘ぎ声を漏らした。
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