隣恋Ⅲ~夕立騒ぎ~ 6話


※ 隣恋Ⅲ~夕立騒ぎ~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 風呂からあがった。

 髪も乾かした。

 夕食も食べた。

 食後のコーヒーも飲んだ。

 気分転換という意味では、かなり色んな事をしたとは思う。

 けれど私の昂ぶりが収まらない。

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 ~ 夕立騒ぎ 6 ~

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 ソファでくつろいでいた愛羽さんの肩を引き寄せ、私に寄りかからせるようにして、口付ける。
 彼女はたぶん、軽い、じゃれるようなキスだと思ったのだろう。

 なにせ風呂からあがった後ほぼずーっと、私達の間には甘い空気が漂っていたのだ。
 愛羽さんがゴキゲンな事もあって、目が合うとか、ちょっとした拍子に近付いたら、にこにこ笑顔でキスをしてくれた。
 もちろんそれを私が拒否だの嫌がるだのするワケもなく、大歓迎して度々キスした。
 だからこそ、今、私からキスをしにいっても、特に不審感は出なかったし、愛羽さんは口元に笑みを乗せながら、私の行為に応じてくれたのだ。

 が。

 心の中で、私は彼女に謝った。

「ん……? ……んん!」

 口を塞いだままで、私は体勢を変えた。
 彼女の太腿を跨ぎ、ソファの背凭れに対面する形で座面に膝を着く。

 もちろん、異変を感じ取った彼女は、抵抗するように私の肩を押し返してくるけれど、すぐにその両手をとらえて、ソファの背凭れへと押さえつけた。

 その間も、私は彼女への口付けをやめない。
 勝手にキスを深くして、噛みつかれないかちょっと心配しながらも舌を挿しこみ、愛羽さんのそれに熱っぽくラブコールを送る。

 だが。

「ちょ……っと」

 顔を横へ向け、強引で性急なキスから逃れた愛羽さんは、「すずめちゃん……!」と焦ったような声で、名を呼んでくる。
 若干呂律の怪しいその声の感じが、私の脳から記憶を引き摺り出す。
 数時間前、浴室で聞いた甘い声を。
 鼓膜を揺さぶり、背筋に快感を走らせる、あの声を。

 ――忘れられるはずもない。

 あの愛羽さんを……私はまた……。

 込み上げる欲によって早くも熱っぽくなった息を、はふと外へ零してから、私は正直に白状した。

「愛羽さんが欲しいんです」

 ストレート以外のなにものでもない私のセリフに、「な……」と、びっくりしたようにこちらを見上げる愛羽さん。
 軽く目を見開いたその顔が赤いのは、先程唐突に、強引に行ったキスのせいか、はたまた……今の私の台詞のせいか。

「も、もう今日は……いっぱいしたでしょう……?」

 言葉を詰まらせながら、視線を泳がせながら、彼女は言う。
 けれど私には掴んで押さえつけている手首の脈動が速いことから、彼女がすこし、こちらへ気持ちが傾いてきていることを察知しているのだ。

 だから、押す。
 押せばイケると判っているから。

「たりない」
「っ」

 ぴくっと指先が跳ねた。
 それほどに、私の台詞には破壊力があったようだ。

 ああほら、脈が、さっきよりも速くなった。
 頬だって、赤みが増した。

 私はゆっくりと、彼女の目を覗き込みながらお願いした。
 ちょっとだけ甘えたふうに、年下っぽく。でも、従順なだけではないのだと知らしめる為に、彼女の手首から上へ、スルリと手をずらし、指同士を絡めた恋人繋ぎをして、ちょっと強めに、ギュっとする。

「もっと貴女をください」

 瞳が、揺れた。

 私がまっすぐに見つめていた愛羽さんの瞳が、大きく、一度揺れた。

 直後、見る間に彼女の顔が真っ赤になる。今までも赤かったけれど、もっと。
 その変わりようにこちらが少し驚くくらいだったけれど、そんなことはおくびにも出さず、私は愛羽さんに顔を寄せる。

 先程とは全く違ったキス。
 ただ触れるだけ。
 軽く。
 ソフトに。
 私の中にある好きが少しでも多く伝わることを願いながら、数瞬の間だけ、唇を重ねた。

「……」

 重なりを解き、ゆっくりと彼女から離れたら愛羽さんの瞳は先程よりずっと潤んでいて、正直、その色気にドキリとする。
 そのせいで隙が出来ていたのだろう。
 愛羽さんは恋人繋ぎだった手を脱出させると、私の首に両腕を回して抱き着いてきた。

 ――ど、どういう、心境の変化なんだ……?

 さっきまで抵抗していた彼女がこうして抱き着いてくれているってことは……期待していいのか?
 だけどまだ、完全にゴーサインが出た訳では……ないよね。

 どう動くべきか判断を迷っている間に、耳元で、愛羽さんの声がした。

「好きよ、雀ちゃん」
「私も、愛羽さんが好きです」

 すき。そう言われる度に、ほっとしている自分がいる。
 もしかすると、まだ私はどこかで、このひとと自分がお付き合いしている現実が信じられないでいるのかもしれない。

 だって、私なんかが、こんな大人で可愛くて綺麗なすごいひとと付き合えるだなんて。
 大好きなひとに告白して、OKが貰えただなんて、現実味が薄い。

 だからこんなふうに好きと言われたり抱き締められたりすると、それらの温もりに、ひどく安心するのかもしれない。
 それに、改めて、彼女が好きだなぁと再確認する瞬間だ。

 溜め息みたいに深めの吐息を、顔を埋めている長くて綺麗な髪の中へ隠し込む。
 じんと震える胸の感情を、目を閉じ、密やかに噛み締めた。

「ねぇ? 雀ちゃん」

 愛羽さんの呼び掛けで、私はゆっくりと体を離しながら彼女の顔を覗く。

「責任とってよね?」

 ――え……。あれ……!?

 そう思ってしまうくらい、僅かな間だけで変化したひとに、私は内心、舌を巻く。
 だって、さっきまでは「も、もう今日は……」とか言ってたくせに。今目の前には、久しぶりに、小悪魔な目をした彼女が居るんだもん。

 貴女が欲しいと訴えたのは紛れもなく私だけど、この変化には戸惑いもする。
 が。

「やっと収まってたんだから」

 おさまってた……?
 脳内でオウム返しに呟きクエスチョンを飛ばしていると、急に胸元の服を掴まれ、ぐいと引き寄せられた。
 グッと一気に詰められた距離はもう、一瞬でキスできそうな超至近距離。

「な、なにが、です?」

 収まってたって、何が?
 そう尋ねる私の目の前で、愛羽さんは笑った。

 きらり。光る。
 小悪魔の目。

「えっちな気分」

 ぺろり。唇を、舐められ、私はゾクンと確かに震えた。

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