※ 隣恋Ⅲ~夕立騒ぎ~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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どうして見ているだけで、こうも欲情をそそられるのか。
それが惚れているということなのか?
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~ 夕立騒ぎ 4 ~
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「ひっくしゅ!」
浴槽のなか。
背中を預けて、私の前に座る愛羽さんが、可愛いくしゃみをした。
ぱちゃんとお湯が揺れて波打つ。きっと正面から見ていたら彼女の大きな胸だって揺れていたんだろうなぁと瞬時に考えてしまうこの万年発情期の頭はどうしようもない。
まぁ……つい先程までソウイウコトをしていたのだから当然の思考傾向と言えば、そうではあるのだが。
「大丈夫ですか? さっきので、冷えちゃいました?」
うー。と鼻をすする愛羽さんの背中や二の腕を見れば、鳥肌が立っている。
さっきの、というのは言わずもがなだがこの浴室で、体も洗わず、湯舟にも浸からず、雨に濡れたままの体でセックスをしていたこと。
しかも私は一時冷たい壁に愛羽さんを押し付けたりした。そのせいで、彼女の体は冷え切ってしまったのかもしれない。
――あれはやっぱり……まずかったか……。
申し訳なさを覚えながら、すこし前屈みになって横から彼女の顔を覗き込む。と、案外ケロリとした表情で「んーん」と首を横振りした愛羽さん。
「だいじょうぶ。なんかね、あったかいお湯に浸かると、よくくしゃみするのわたし」
ずび。と鼻水をすすり、鳥肌の立った二の腕をさすっている。
「お湯に浸かると出るんですか?」
「そう。昔っからなの」
おかしそうに笑う彼女の肩に、手ですくってお湯をかけてあげる。「昔っから」と、ちいさい”っ”を入れるくらいに昔から、そういう体質と自分で気付いていたのか。
「ライトとか太陽とか見たら、くしゃみ出る人と一緒ですかね」
「あ、そうそう。そんな感じ」
彼女の事を教えてもらえるのは嬉しい。
私達はまだそこまで長い付き合いにはなっていない。付き合うより前、つまり愛羽さんと出会ってからを計上したとしても、1年にも満たない年月しか共に過ごしていないのだ。
だからこういう……なんの意味もないと言ってはアレだけど……別段知る必要はないけれど愛羽さんに詳しくなれる、そんな情報を得られるのは嬉しい。
そういうのは、深い仲でないと、知らされる機会もないだろうから。
胸のあたりがぽわぽわと温かくなる一方で、私は内心、それにしても……と呟いた。
さっきまでナニをしていたのに、この普通の会話。
あんなに乱れて「今日はえっちな気分だから強引にしてもいい」とかなんとか言っていた恋人が、くしゃみについて語っている。
それは微笑ましく思える。
だが……。
なんでだか。
どうしてだか。
――おもしろくない。
拗ねるような感情が芽生えた理由は不明だった。だけど理由が分からずとも面白くないと思うことは可能で、その感情へ素直に従った私は、脚の間に座る彼女をするりと撫でてみた。
傍に並べる脚を比べてみても、私より随分白い肌。いつもスカートの中に秘められている太腿はいっそう白くて、お湯の中で触れるとより滑らかだ。
つ……つ、と指の腹を這わせて、記憶の中の甘声を呼び起こす。
さっきはこれで。指一本だけで物凄く可愛い声を聞かせてくれていた。それが数十分後にはくしゃみがどうの、と平気な顔をして話していた愛羽さん。
――ああ……そうか。
なんか、分かった気がする。面白くない理由。
これは……たぶん。
そんなにすぐ、私とのセックスの余韻は無くなるものなのか。
あれだけ乱れていたのに。
あれだけ誘ってきたのに。
あんな物言いをしたくらいだから、もっと欲しがってくれてもいいのに。
イッたあと少しふやけた表情を見せてくれていたけど、そこまでだった。
そこからは普段通りの入浴で、行為の後のピロートーク的な空気すらなかった。
だから……たぶん、寂しいと感じたり、残念に思ったり。置き去りにされたような気がしてしまったんだ。
だから今……彼女を引き戻そうと、こうして肌に触れているんだと思う。
彼女の中の、余韻を探るように。そしてあるはずだと信じている余韻と記憶を、引き戻し、引き起こすように。
ゆっくりと、じっとりと。
指の腹を使って、時折、爪の先で引っ掻いて。
背後から彼女の首元を熱のこもった視線で焼きながら、滑らかな肌を少しずつ味わった。
会話が途絶えて何かしら空気の移ろいを愛羽さんは感じたのかもしれない。肩越しにこちらを振り返りかけて、途中でぴたと動きを止めた。
斜め左。ていうかほんのちょっと左。真後ろの私の顔は全く見えていないくらいの振り返り具合で止まったままなのに、彼女の耳が根本から赤らんでいるのは……湯に浸かっているから?
どちらなのか、その正解は分からない。
だけど愛羽さんは絶対何かを察してる。根拠のない確信をどこからともなく持ってきた私は、指の腹だけでなく手のひらも使う。
綺麗な肌を何往復かした頃、静かな浴室に、愛羽さんの吐息が零れて落ちた。
ただの吐息じゃない。
少し強めの、がまんという土嚢を越えてしまったような吐息。
つられて、私の息もあがりそうで、慌てて鼻からゆっくりゆっくり、息を深く吸う。
落ち着け落ち着け。
私が先に興奮してどうする。
愛羽さんを先に……などと思いながら、往復していた手に少しばかり緩急を加えた瞬間だった。
「ん」
小さく声を漏らした愛羽さん。
――あぁ、やっぱり。
私は彼女の背後で、唇に笑みを浮かべた。
さっきの息遣いでその兆しはあったけれど、これで更に確信が持てた。
私は声をかける事もなく、ただ静かに、彼女の脚に指をすべらせる。
狭い浴槽内で、脚を曲げている愛羽さんの膝くらいまでなら手が届く。その届く範囲をゆっくり、じっくり。指の腹で撫でたり、爪を軽く立てて撫でたり、手のひらを密着させたままだったり、ほんの少しだけ浮かせたフェザータッチだったり。
湯舟の水面が跳ねない程度。ゆらめくお湯の表面は穏やか。
だから水音も立たない。
だから、他の音が、よく耳に届く。
「……」
愛羽さんは、何も言わない。
けれど浴室には、がまんを越えて零れた息遣いが反響している。
声は辛うじて抑えているけれど、代償として、徐々に乱れてゆく呼吸。増す色香。
――そろそろ、かな。
さっき強引にイかせた分、今度はゆっくりと……なんて、もう、する事が前提の思考。
今日の自分は本当に自分勝手だ。
欲しいままに、愛羽さんを求めている。
彼女が嫌がるかもしれない、などと考えない私は、脳のどこか一部が欠陥品なのかもしれない。
――でも。嫌なら止めるなり、立ち上がるなりするだろ。
本当に嫌ならば。
逃げないで私の腕の中に居るってことは……やっぱり愛羽さんは「なんか今日……すごいエッチな気分」と言っていた通りで、見せていなかっただけで、まだ、燻っていたのかもしれない。
そうやって都合の良いように思考を展開しながら、肘を曲げ、愛羽さんの膝の横あたりから太腿を辿り、さらにお尻の横を通過して、腰骨を撫でる。
「ん、ぁっ……」
甘い声色。
完全に、感じている声だった。
まだ、忘れた訳ではなかったのだ、先程の私との行為の余韻は。
私の洞察力が弱いせいか、それとも彼女が隠し事が上手いせいか。
残る余韻を見逃していただけで、こうして、少しの愛撫で引き出すことは可能なくらい、身体に溜め込まれていたのだ。
私は欲情を引き起こせたことに満足しつつ、より近くへ彼女を抱き寄せるように片腕を愛羽さんのお腹に回す。
「すずめ、ちゃん……?」
疑問符を最後につけた声で名を呼ばれたけれど、彼女だって、理解しているはずだ。
これからまた、何が始まるのか。
これから自分が、何をされるのか。
このねっとりとした空気を感じ取れないほど、愛羽さんは子供でも、鈍感でもない。
「鳥肌。立ってますよ?」
さっきくしゃみで立った鳥肌は、すでにおさまっていたはず。
だが、背後から見つめる白い肌には、ぷつぷつと小さな突起が肌を覆っている。
なのに愛羽さんは言い訳するように、首を振った。
「コレはさっきのくしゃみで――」
「――ウソツキ」
言葉を遮って、彼女の肩に噛みつく。
痛くないように加減はしたけれど、歯形のつく一歩手前。
「アッ……」
きゅうぅっと彼女の拳が握りこまれ、エコーの効いた甘声で、背中がぞくりとする。
かわいい。
耐えてる。
俯きがちな顔は、どんな表情を湛えているんだろう。
正面から見つめたい。
叶わない願いを抱きながら、肌を挟む歯を開き、残らなかった噛み痕を残念がって、舌を這わせた。
「んんっ……、ふ……っ」
口元を片手で覆い、何を隠そうとしているのか。
貴女の可愛い声は零れ、忙しない息遣いは散り広がっている。
どちらもこの至近距離に居る私には既に届いているうえ、隠そうとして出来る代物でもないだろう。
「は……ぅ、ん……っ」
ほら、声がおおきくなった。
息だって、もっと乱れてきてる。
「かわいい」
思わず告げれば、「るさい」「かわいくない」の代わりだろう。
私の腕の中で身を捩る愛羽さん。
「本当に嫌なら、放しますけど」
一度だけぐっと引き寄せて、強く抱き締めた。
水を纏って滑る身体は小さくて、私が腕力にものを言わせれば、簡単に捻じ伏せられる。
だからこそ、無理矢理はしたくない。
貴女の意思で、決めてほしい。
「続けて、いいですか?」
きつく抱き竦めていた腕を緩めた私は、たぶん「ずるい」って言われるだろうなと予想しながら、問い掛けた。
こんな質問をされて「だめ」と言えるだろうか?
もしも私が逆の立場なら、非常に言い辛い。
様々な感情が入り混じって結局のところ「ずるい」に終着するんじゃないかな。と思いながら、洗った髪を上でまとめている彼女のうなじに目を奪われて、すすと顔を寄せる。
まだ答えはもらってないけど、このくらいなら……。
接近してくる気配を感じたのか愛羽さんがこちらを僅かに振り向いて、にらんでくる。
「まだいいって言ってない」
赤い顔で、潤んだ瞳で、くやしそうに、可愛い……もといきつい視線を送ってくるひとが、どうしようもなく可愛くて仕方ない。
だって、「まだ」ってことはつまり、いいと答える予定と教えているようなものだ。
ああもう、本当に可愛い。
どうしてそんなに貴女は可愛いのか。
堪らなくなった私は、込み上げる感情に振り回されるようにして緩めていた腕で、また大好きなひとを抱き締めた。
「じゃあ、はやく言ってください」
こんな言い方をすれば愛羽さんが反発するのは分かりきっているのに。
鼻先をうなじへ押し当てて、「あいはさん」と急かす。
首は彼女の弱点だ。弱点の中でも、うなじはもっと弱い場所。
そこを人質のようにとらえられた状態で急かされては、きっと嫌なものも嫌と正直には断れまい。
なのに私は、卑怯な手を緩められない。
「はやく」
抱き締める腕を更に強めて囁いた。
なんならあと数秒、彼女が言葉を発するのが遅かったなら、私は丁度腕に触れた胸の先端をつかまえて答えを迫っただろう。が、それをするよりも先に「ずるい」と咎める声を浴びたので、「ごめんなさい」と謝るしかできなかった。
だって、ずるい事をしている自覚はあったし、死ぬほど嫌ではないにせよ大歓迎ではない様子の愛羽さんに対して強引に迫っている罪悪感はあったから。
でも……。
「あやま、らなくて、いいから」
途切れ途切れに、愛羽さんからそう言われた。
謝らなくていい?
どうして? と疑問を脳内に浮かべた時には既に、答えが寄越されていた。
「はやくして」
きっと初めから愛羽さんは、「謝らなくていいから早くして」と一息に言いたかったのだろう。けれど乱れた呼吸がそれを許さなかった。
そんなふうに推測を組み立てた私はまた、よりいっそう堪らなくなって、彼女をきつく抱き締める。
寒くもないのに肌が粟立ち、先程愛羽さんに見られた鳥肌が私の全身へ移ったみたいだ。
ドクドクと鳴り響く心音が聞こえてしまえばいい。肌を通して愛羽さんへ伝われば、私がどれだけ貴女に夢中なのか分かってもらえそうな気がするから。
「あいはさん」
名を呼ぶ声が、いつもと違う。
溶けているようなふやけているような。
差を説明しろと言われてもきっと無理だけど、何かが違う。
その原因はたぶん、この熱くて苦しい胸にあるだろう。
「あいはさん」
馬鹿の一つ覚えのように紡ぐ名前のひとは、私の腕へ手を添えてくれた。
それを合図に、彼女のうなじへ唇を押し当て、軽く吸う。
出来ることならキスマークを残したいけれど……ここは流石に、服で隠せない。
長い髪をおろしていれば見えないかもしれないが、やめておくことにした。
「ん、ぅ」
身構えていた愛羽さんは、小さく唸るような反応を示しただけだった。
じゃあ、もっとしても大丈夫?
そう思ってしまった。要は調子に乗ったのだ。
また私は遠慮も考えず愛羽さんのうなじに歯を立てた。
どこまでいっても私を受け入れてくれる彼女に甘えて、噛みついた肌は柔らかい。果物みたいな噛み心地だなどと蕩けた頭で考える私の耳へ、
「ひぁ……っ」
上擦った甘い声が反響しながら飛び込んできた。
……どうしよう。かわいい。
もっと聞きたい。その、可愛い声。
「ぁっ……ぁっだめ……ッ」
かぷかぷと歯型が残らない程度の力加減。きっと甘噛みに分類されるものだろう。
大した咬力は加わっていないものの、愛羽さんは私の腕の中で悶えるみたいに首を竦める。
――いたかったかな……?
痛くしたつもりはないんだけれど……。
一応、歯を立てた場所には舌を這わせてみた。
もしかしたら、痛かったかもしれないから。
それに。
噛みつかれた肌は、一時的に敏感になっているから。
「あっ、ぁ……っく、ぅ」
こうすれば、きっと、気持ち良くなってもらえると思ったから、私は丹念に繰り返した。
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