※ 隣恋Ⅲ~夕立騒ぎ~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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全部を、ぐちゃぐちゃにしてやりたい。
爪の先から、身体の奥まで、全部。
全てを。
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~ 夕立騒ぎ 2 ~
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お互いどこでどうスイッチが入ったのか分からなかったけれど、お互い、そんなふうになりたかったんだろう。
そんな日だったんだ。
自分の中の昂りの理由のほとんどは、目の前の恋人の色気。それは理解出来ていたんだけど、でもこうまで興奮しているのは何故なのか、原因の判明はできなかった。
対して愛羽さんが、曰く「すごいエッチな気分」になった原因も理由も、私には到底分からない。
だから、きっとそういう日だったんだと片付けて、私は余計な考えを脳内から排除した。
どれだけ昂っても、もう、冷えきった壁に愛羽さんを押しつけてしまわないように。
ひと欠片でいいから、彼女を気遣える理性と冷静さを失わないように。
それだけは気を付けながら、その他の意識は全て彼女へ注いだ。
視覚も、触覚も、嗅覚も、聴覚も、味覚も。
全部を使って愛羽さんを愛撫したし、全部を用いて恋人を堪能した。
それこそ愛撫は、ひたすらに隅々まで行き渡らせた。
左の手の指から始まり、指の谷間も、手のひらも、手相……手のひらの皺の窪みも。全てに舌を這わせた。
そこから続く、手首も。浮き出る骨も、肌に透けて見える血管も辿った。
肘も、二の腕も、肩も辿り、首の左側、中央、右側、鎖骨、右肩、二の腕、右肘、手首、手のひら、指の谷間、指、爪。
全てに、私の唾液を与えた。
息は上がり、鼓動はうるさいくらいだった。それでも、お互いにセーブしようだなんて言い出さない。
もっと。
もっと、したい。
もっと彼女の乱れきった声を聞きたい。
もっともっと乱れきった顔を見たい。
その欲は、どんなに愛羽さんが嬌声を零そうが減らなかったし、それどころか、更なる欲望が湧き上がる為の呼び水になってしまう有様だ。
気遣いの為に残してある僅かな理性と冷静さだって、いつ吹き飛んでしまうか分からない。
まるで綱渡りをしているような自分の精神状態のくせに、彼女を求める手は止まらなかった。
不格好にずらしたままだった彼女のブラジャーのホックを外しながら、ふと感じた息苦しさの原因を視線で探る。
すぐに発見したのは、まだお湯を貯め続けている蛇口。
ドボドボと注がれた湯からは湯気が濛々と立ち昇り、閉めきった浴室に煙るようだ。道理で息苦しい訳だと納得する。
お湯張りなんて放置して熱心に――いや一心不乱にと言った方が正しいか――愛羽さんを求めていたから、流石に、もう湯船も満杯に近い。
吐き出され続ける湯を止めるべく手を伸ばして、蛇口を捻り、閉める。と、栓を閉め切る寸前、水道を見遣る私の視線を遮るが如く、頬に愛羽さんの手があてがわれた。
瞬きの間程、驚きに支配された私ではあったけれど、
「もっとして……」
くい、とその手で蛇口へ向けていた顔を戻され、言葉の意味を脳が理解した瞬間、身体がカッカと火照る感覚に襲われた。
腹よりもっと下の方。
底からぐわりとせり上がった熱の正体が、どんな感情だったかを突き止めるよりも前に、恋人の表情を認めたのは、間違いだったかもしれない。
無意識に唾を飲み込むくらい、燃えるような色情を湛える潤んだ瞳。
半開きでぷるりとした唇が「ねぇ」と私を呼ぶ。
そんなことをされたら、身体を燃やす熱の正体を突き止めるよりも、衝動を、欲を、優先させてしまいたくなるじゃないか。
「……」
私の顔の向きを変えた手の指が、耳たぶを挟んで軽く引いた。
言葉を使わなくても、ねだられた気がするのは……きっと勘違いじゃないんだろう。
視線を重ねただけでもゾクとする。
そんな色気ばかりを纏う愛羽さんに、吸い寄せられるみたいに顔を近付けた。
閉め切る寸前で視線を奪われたせいで、蛇口からはまるで糸のように細く、湯にもならない程の水が流れていたけれど……あのくらいなら構わないだろう。
唇を重ねたものの、いつもみたいにゆったりとしたキスなんて、今の私には出来なかった。
それはどうやら愛羽さんも同じだったようで、すぐに伸ばされた舌同士が相手を求め、貪るキスで互いの唾液が絡まる。
本音を言わせてもらえるのなら、もっともっと貴女の身体にこの舌を這わせたかったけれど……こんなにも乱れ、求めてくれる愛羽さんを見せられたら無理だ。
我慢、できない。
無造作に落とされたブラジャーを尻目に、私は愛羽さんの腹部へ逆手をあてがう。
へそより少し下。触れた指で肌を辿りながら真下へ移動すれば、短く整えた爪の先が浴室内の湿気を吸って重たくなった下着の縁と出会う。
上をいくか。
下をいくか。
迷ったのは一瞬だけ。
私の指先は、紫色の下着の縁を潜り込むルートで侵入した。
「……ぁ……」
それまで私との口付けのみに集中していた愛羽さんが、そのキスの合間、ちいさく声を零した。
己が唯一身に着けている布の内部へ、私が入り込んだことに気が付いたからだろう。
耽る、との言葉が一番しっくりくるキス以外へ意識を向けてしまった愛羽さんの脳内には、どうやら途端に、恥じらいだの、遠慮だの、今は必要のない思考も戻ってきてしまったらしい。
私を求めに求めてくれていた彼女の舌は引っ込み、そこからの動きも鈍った。
――もっと欲しがってほしいのに。
貴女が私の視線を蛇口から引き戻した時と、きっと、同じような感情を抱いているんだと思う。
もっとしてください。
キスに、集中して。
そんな欲を込めて、動きの鈍った舌を呼びにいく。
半開きなのをいいことに、唇を乗り越え彼女の口内へ侵入し、先端に触れる。くすぐるように舐めてみれば、先程までは私に吸い付いてくれたのに、今やもう、おずおずと舌の先を擦り付け返してくれるだけ。
――すぐ、我に還っちゃうんだから。
まったくもう、と口を尖らせたくなる。こういう時の愛羽さんは。
私と貴女の二人きり。他の誰に見られるでもない空間のはずなのに、愛羽さんはふとした拍子に我に還ることが多い。
それまではのめり込むように乗り気をみせていたくせに、物音ひとつで急に控えめになったりするのは今までも時折経験があった。
こちらとしては、恥じらいすらも考える余裕のないセックスに没頭して欲しいのに。
私にしか見せない姿を、堪能させて欲しいのだから。
そんな私の願いなど届きはしないのか、愛羽さんの腕も緩んできた。
さっきまで首へ回していたり、後頭部を掻き抱いてくれたりしたのに……。
しかも、私の手の行方も気になって仕方ないらしい。
愛羽さんはそれまでのキスで乱れた呼吸を浅く繰り返しながら、下着の中へ侵入した指がどこへ向かうのか、そればかりを気にしている。そのせいで、私とのキスも少しおざなりだ。
――仕方ないなぁ。
そんな呟きを脳内で零した私は求め合うキスを諦めて、彼女の唇の感触を堪能することに決めた。
ぷっくりとした女性らしい唇は、舌で触れ続けていても飽きることはない感触なのだ。
舐めてるときもちいい。と感想を抱きつつも、もちろん、下の方では動きを止めていない手を、引き続き進行させる。
私とのキスに意識を戻してくれるか、それとも手の行方……果てはそちらから与えられるであろう刺激に意識を集中させるか。愛羽さんがどちらへ転ぶのか密かに楽しんでいると知ったら、彼女は赤い顔で私を睨んでくるだろうか?
まぁ、あの顔で睨まれたとしても可愛いだけで、全然怖くはないからいいんだけど。
しっとりした肌へ手のひらをくっつけるようにして下着の内側へ潜り込んだ指の先は既に、茂みへ突入し、匍匐前進を続行中。
いつの間にか愛羽さんの手が私の右二の腕辺りへ添えられている。
押し返したり、進行を遮ったりはしていないけれど、僅かに力んだ指が肌を押す感触は伝わっていて、若干の緊張をも伝達してきた。
やわやわと啄んでいる唇は、思い出したよう時折私に応じてくれるけれど、指が下着の中を進行すればするほど動きが硬くなってゆく。
が……。
「…………ぁ……っ」
動きが硬くなるだけではなくなってきた。
私の指が茂みを掻き分け、あと少しで蕾へ到着しようかという頃になって、愛羽さんが脚を力ませたのだ。
――……進めない。
生憎と、彼女の両脚の間へ膝を割り入れていなかったせいで、太腿をくっつけるよう脚を閉じられると、その先への侵入は許されない。
しまったな。冷静じゃなかったせいでこんな形でストップを掛けられるとは。
己の手技の甘さを反省しつつも、彼女に脚を緩めるよう軽く肌を引っ掻いて促す。肌とは言えど、もうそこは生い茂っている場所で、まるでかき回すように逆立ててしまったのだが。
そのせいか、愛羽さんが薄く開いた瞼の隙間から、軽くにらんでくる。
いや……べつに毛で遊んだ訳じゃなくて……ですね。
意思疎通が上手くいってないのか、唇も軽く噛んで引っ張られる有様だ。
「……」
解放された唇に甘噛みの名残りを感じた私は、少しばかり、どきどきさせられる。
なんか……そうやって仕草で不満をぶつけてくる愛羽さんがオトナノオンナって感じがしたから。
い、いやいや……今はそれどころじゃなくて、だ。
不覚にもときめいた心を落ち着けつつ、私はすこし強引に、指を進めた。
いくら脚を閉じたからと言っても、指のたった一本も侵入できない程の堅牢さはない。中指の一本くらいならスルリと入り込めると踏んで、押し入ってみたのだが。
「ぁ、やっ……」
そんなに、だったんですか?
そう問い掛けたくなるほど、潤沢な愛液を指先に感じた私の耳には、焦りつつも上擦った甘声が届いて、背筋がゾクとする。
二の腕をくっと掴む細指の感触も、更に強張る両太腿の様子も、私の中にある欲を増幅させてくるのだから……堪らない。
前戯でどれだけ昂ったのだろう。
彼女の弱点は数ヶ所制覇したし、互いに昂ったまま求め合っていたから、よっぽど良かったんだろうな。
それだけではなく。
大きく脚を開かせていた訳ではなかったから、きっともじもじと擦り合わせて自然と、入口から溢れた愛液が、蕾までをも濡らしたのだろう。
――可愛すぎやしないか……?
エロいのは、もちろんなんだけど。
それだけじゃなくて、こういう時に視線を背けて恥じらう姿は……随分可愛い。し、加虐心をそそられる。
さっきは、恥じらいすら考えられないくらいに……などと願っていたのに、現金なものだ。
恥じらう彼女もまたいいなぁと目を細める自分には呆れるけれどこのいい塩梅が堪らないのも、事実。
私はほんの僅かに、中指に許された可動空間で前後に動いてみる。
蕾に帯びた愛液が指の腹へ広がり、そしてそれを、さらに塗り拡げた。
「っ……ぁ……、ん……」
息を詰まらせながらなんとか声を抑えている愛羽さんだが……確実に私の中指の動きに感じている。
いつもの倍は、濡れているソコ。
軽く蕾を撫でただけで、腰をひくつかせる愛羽さんが、どうしようもなく、可愛い。
だから。
だから……もっともっと、乱れさせたくなる。
浅い呼吸で閉じることなど許されない彼女の唇を、私はわざとひと舐めした。
ただの口付けでは、彼女の意識を呼び寄せられないと思ったから。
狙い通り、愛羽さんの瞳がこちらを向いてくれたので、改めてきちんと、唇を重ねたまま私は心の中で謝った。
女性のオーガズムには時間をかけなければいけないことくらい、分かっている。
けれど、今日は気持ちが急いて、じっくり出来ない。
貴女の全てが整うまで、待ってあげられない。
優しく……できない。
――ごめん、なさい。
再度心の中で謝って、私は指を更に進行させた。
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