※ 隣恋Ⅲ~夕立騒ぎ~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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可愛い服を着た姿を久々に見ただけなのに。
どうしてこうも、すぐ、欲しくなってしまうのだろう。
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~ 夕立騒ぎ 1 ~
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まだ、夕方。
夏真っ盛りの今。
4時過ぎからの夕立。
突然雨に降られた私達は急ぎ足で帰宅。
買ってきた食材など、要冷蔵のものをとりあえず冷蔵庫へ。濡れた髪からはポタポタと雫が落ちていたけれど、フローリングを拭くよりも先に私達は風呂へと向かった。
かなりの雨だったし、いっそお風呂へ入って温まろう。
愛羽さんの提案で二人一緒の入浴が決まったのだけど……いかんせん、濡れた布は、肌に張り付いた。
殊、愛羽さんの今日の服装は、なかなか脱ぐのに苦労する造り。
確か以前、あの服は着るのも難しいとぼやいていたような気もする。けれど、「でも、可愛いから好きな服なの」と愛羽さんが嬉しそうに笑っていたのも、覚えがある。
自身については「可愛くない」と否定を口にするひとなのに、可愛い服を着用するのは問題ないんだなぁと、その複雑な乙女心もとい愛羽さん心を垣間見た瞬間だったから、私の記憶には印象強く残っていた。
そんな記憶を思い起しては再びそっと仕舞い込む。付き合ってまださほど経っていないけれど、私の記憶の引き出しは、愛羽さんに関する記憶がたくさん増えた。
大好きなひとの思い出でいっぱい。こんなに嬉しいことはない。
彼女と違って着るのも脱ぐのも簡単な服を脱ぎさった私が先に、脱衣場から浴室へ入った。
けれどもすぐ浴室のドアを閉めることもなく、振り返った先のひとへと視線を奪われる。
こくと小さく唾を飲んだ音は、ドボドボと蛇口からお湯を吐き出す音に掻き消されたのだろう。浴槽に貯まりつつある湯からは湯気が立ち昇っている。
視界はその湯気で、霞がかったようだった。
けれど、私の目は、やはり釘付けなまま。
濡れて、張り付いて、透けている。
白い生地の下から覗く肌や、下着。
――紫色……だったんだ。
夕食の買い出しへお供したスーパー。
ちょっとした日常的な買い物。そこへ行くだけだったのにいわゆるちょっとしたおめかしをしてくれた愛羽さんの可愛い服の下には、そんな大人っぽい色の下着が隠されていたのか。
変態的な思考回路で想いを馳せるのが間違っているのだが……なんというか……目の前の光景が刺激的過ぎて、余計なことまで考えてしまう。
愛羽さんがお豆腐を手にした時、彼女の足元を走り去ったチビは見てやしないだろうか、とか。
いやいやいや覗き込まなきゃ見えない丈のスカートだったはずだぞ、とか。
それでも、にしたって……愛羽さんのえっちな色の下着の真横を通っていったんだよな、とか。
そんなことを考えていたら、つい。ついつい、愛羽さんへと手が伸びてしまった。
未だに脱げないでいる上の服。
スカートはもう取り去っているのだけど、トップスがまだ。
濡れた布が張り付いて腕が上手に抜けないらしい。
――きっと、それを取り去る為だ。
私が彼女に手を伸ばしたのは。
脱ぎ辛そうなそれを取り払う為。
……べつに、チビがどうとか、妬いたとか。えっちな色の下着とか、透ける肌とか……関係ない。
………………、たぶん。
「ひゃ!?」
私の手が触れてくるだなんて予想もしていなかったんだろう。
愛羽さんは突然の手に心底驚いた声と顔をしていたけれど、数秒固まった後、袖を摘まむよう動きだした私の手にお手伝いの意図を感じ取ってくれたのか安堵の笑みを浮かべ、「ありがと」とお礼まで言ってくれた。
内心、ほんの少し罪悪感が湧いた……けれど近付いたぶん、透ける肌や下着がよく見えてしまった。そのせいで罪悪感なんて瞬殺だ。
えっちすぎる色気を放つ愛羽さんがわるいんだよ。
責任をなすりつけながら、私は愛羽さんの脱衣を手伝った。
腕を抜くのに苦労しているから、私が服の袖を握って、愛羽さんは肘を曲げながら腕を引っこ抜く。
一生懸命に肩を竦める動きは、ものすごく鎖骨が浮き出るのだと生まれて初めて知った。
水が貯まりそうなその窪みや、紫色の肩紐が浮いた様子は実に目の毒だ。
――エロすぎないか……?
なんならわざとやっているのだと考えた方がしっくりくるぐらいえっちな光景。
だが、愛羽さんが一緒にお風呂へ入ろうと提案してくれたくらいだから、きっと彼女は雨で冷えた体を温めて風邪予防に努める考えしか持っていないのだろう。
この場で、下心を抱いているのは、この私だけ。
だが。
「んーー……っ」
唸りながらも、なんとか。
肌へ全力で張り付く服を脱ぎ、紫色の下着だけの姿になった愛羽さん。
――服着ててもえっちだったけど、脱いでもえっちってどういう事だよ……。
いや、きっと、私がそういう目で見てるからだと思うけどさ。でも……エロ過ぎと思わざるを得ない。
「……」
ああもう。
そう内心言い捨てて、私は下着姿の彼女に手を伸ばした。
服が含む水をとりあえず絞っている愛羽さんの肩。
日に焼けていない白い肌と、紫色の対比があまりにもエロい。
絞った服片手に愛羽さんは私を首だけで振り返った。
呼ばれた、とでも思ったんだろう。
彼女は無言ではあったけれど、「え?」と云わんばかりの表情だった。
雨に降られてからしばらく時間が経っていた事もあって、触れた肌は冷えきっている。
私の手が熱すぎるからだろうか、指の腹で触れただけでも”きもちいい”とさえ、感じた。
するりと肩を撫でながら、私はもう片手を伸ばす。
絞った服を彼女の手から抜き取って、洗濯カゴへ落とした。直後再び愛羽さんに近付き、腰を抱き寄せる手で、どうやら彼女は察してくれたらしい。
私が恋人を両腕で囲う頃には、「もう」と云いたげな表情の愛羽さん。
呆れも少々含んだ視線は私を軽く咎めているけれど、本当にダメな時みたいに禁じる気配は窺えない。
嫌がる様子も、ない。
つまりは、押せばイケる、だ。
そう判断した私は愛羽さんを浴室へと引き込んだ。
「ぇ、ちょ……はやい、って」
まだ下着を纏っているからだろう。
浴室に引っ張り込まれた彼女が慌てるけれど、構わず私はドアを閉めた。
濡れた服から滲みた雨で、下着も湿っているんだから今以上に濡れても大差ないだろう。きっとシャワーを済ませた後洗濯機は回すだろうし、問題はない。
愛羽さんの意思を完全に無視した物の考えを繰り広げ、恋人を密室に閉じ込める。
お湯張りの為に蛇口から勢いよく湯を吐き出し続けている音が、閉鎖空間ではよりいっそう大きく感じられた。
増えるお湯の嵩。
比例するように増す湯気。
霧の中へ立っているような視界だが、その中でも一際目立つのが紫色。
彼女の身体を覆って隠すその薄布は、私の視線を引き付けて離さない。
――あぁ……でも。
私は知ってる。
その紫色の下にはもっともっと、そそる色が隠れてるんだ。
これまで何度も夜を共にしたから、知ってる。けど、こんなにも明るい場所で目にする機会は少ないから期待もしてる。
高鳴る心臓と逸る気持ち。それらをコントロール出来ない未熟さから、早いと咎められているにも関わらず、豊満な胸を包む下着をずらして、ツンと立ったそれを口に含んだ。
「あっ……」
エコーがかった愛羽さんの声。
詰まるよう途切れた声に、ほんのり帯びた甘味がもっと欲しい。
真っ暗な部屋のベッドの中で聞く……あの声。
あれが聞きたい。
だって、ここは浴室だ。
家の中で一番歌を歌って気持ちよくなれる環境の場所。それだけ音響設備が整った場所で、あの嬌声を聞いてみたい。
そんな自分勝手な欲を構築した私は、口へ含んだ尖りを舌で包んだあと、吸い上げた。
チゥと甲高い音が遠慮もなく浴室内へ響く。
興奮材料としては、良品だ。
「はっ、……ぅん」
――……抑えてる。
一応、彼女から声はあがった。
だけどそれはベッドで聞くいつもの声の十分の一と言っても過言ではない程度。
なんでだよ。
そう不満を抱いた私は、肩へ置かれた恋人の手にすらも、不満を抱いた。
嫌がってなかったくせに……と、恨むような、咎めるような気持ちが膨れてくる。その衝動のままに頭の隅でひと欠片だけ浮かんだ”冷たいだろうか”という心配さえも結局は無視して、愛羽さんの体を浴室の壁へと押しつける。
浴室の壁は石造りではないにしても、もちろんのこと、冷たい。
雨で冷えている体よりも、もっとずっと、冷たいのだ。
案の定、冷たさに顔を歪めた彼女。
愛羽さんの意識は一気に、背中があたっている冷たい壁へと向いた。
それは当然だ。けれども私はそれすら気に食わない。
何をそんなにイラついているのか。私は躍起になって、彼女の弱点である首筋へとターゲットを移す。
愛羽さんの意識を逸らさせたのは、私自身なのに。
頭の隅の隅に辛うじて存在している冷静な自分がそう咎める声が聞こえてくる。
けれど、……でも。
嫌がっていないなら、愛羽さんには私だけを見ていて欲しい。
随分身勝手な願いだけど、そう思ってしまうし、そう仕向けたくなる。
――愛羽さん……。
頭の中で、彼女の名前を呼ぶ。
どうせなら、声に出して呼べばいいのに。
それもせず、目の前の細い首筋へと鼻先をあて、私は更に擦り寄る。
濡れた長い髪からは愛羽さんの愛用のシャンプーの匂いがした。嗅ぎ慣れた、彼女の匂い。頭がじんと痺れるような波に襲われて、その波は、心臓の辺りまで波及する。
――あいは、さん。
大好きなひとの名前を頭の中で呟く。
呟いたそれだけで。言霊さえ宿していないたったそれだけで、私は……胸が苦しくなる。
気遣いも遠慮もなく、私の我儘に付き合わせたから。
強引に、冷たい壁へ押し付けたから……その罪悪感なんだろうか、この苦しみは。
いいや、だったら。……だったらもっと、苦しくて痛くて、辛くていいはずだ。
今こうして感じている胸の苦しみは……罪悪感にしては、円やかすぎる。
「……」
わからない。
なんの苦しさなのか。
正体不明だ。
不可解なものから逃げるように、私は愛羽さんの肌へ唇を押しつけた。
つめたい。
表面が冷えきっていて、奥のほうからほんのりと伝わってくるような体温。
思わず舌を触れさせてみても、やはりその肌の冷たさが際立つだけ。否、際立つだけではない。
私の舌がいつも以上に熱く感じられるほどに愛羽さんは冷えきっていたのだ。
互いの温度差が明確過ぎて、どこへ、どんなふうに触れているのか、鮮明に浮かび上がる。
「あっ、は……ぅ」
声のトーンが、あがった。
彼女の指が、私の背を引っ掻く。
いつの間に私を抱く形にその腕が動いていたかは分からなかった。けれども今、愛羽さんの手が私の背を掻くようにしているのは確かだ。
――あんな、乱暴したのに。
ここまで冷えきっているひとを、それ以上冷たい壁に……。
申し訳なさが湧き上がると同時に、私は愛羽さんを押しつけていた肩から手を離す。
手を滑らせる先は、腰。
彼女を壁へ押しつけるのではなく、引き寄せ、自分の肌に密着させるよう抱き締めながら、首筋へ顔を埋めた。
これも身勝手ながら……彼女を少しでも温めたくて、抱き竦める。
「っ……は……」
彼女が零す息遣いを耳に聞きつつ、唇を這わせながら啄んだ肌に、舌を伸ばす。
視界は愛羽さんの長い髪でいっぱいだ。
濡れて、いつもよりもうねりを増したそれが包むのは、白くて細い首筋。
青い血管が透けて見えるそこへ舌の先を触れさせる。
それだけで愛羽さんの吐く息遣いが、つよくなった。
じり、じりと舌の先を進めてみる。首の根元方向。鎖骨に近付くよう動けば、堪えるように喉奥で掠れ声を拗らせる愛羽さんが、横を向く。
顔を逸らし首筋を開く愛羽さん。
その姿が、どれだけ色香を増しているのか、彼女自身考えたことはあるのだろうか?
「……」
思わず歯を立てたくなる白い首筋が、そこに晒されている。
眩暈がしそうなほど、頭の中がぼぅっとしてくるから、こまる。
きっと本人は声を堪えるか、与えられた刺激からの快感を堪える為の動作なのだろう。
けれど私にとってこの光景はどうしようもなく、煽情的で、昂らずにはいられない。
鎖骨に触れた舌で、皮膚の下の硬い感触をひと舐めすると、来た方向へと引き返す。
首元から、耳元へ。滑らかな肌に鈍く光る筋を残しながら、這い上がる。
「……ン……ぅっ」
元々愛羽さんの弱点であることは、知っている。
けれど……。
「ぁ……ぁぁ……っ」
いつもより……。
――……感じてる。
「ンっ……ふ、……ぁ」
漏れ聞こえてくる甘声が、多い。
初めはもっと聞きたいと思っていたが、こんなにも聞かせてもらえると……ゾクゾクすると同時に、異変を感じてしまう。
それに……。
「……愛羽さん……」
そんなふうに、いつも以上の様子を見せてくれる彼女に、私だって、つられてしまうから。
耳の根元まで辿り着いた私がそこで囁けば、彼女は「んンん……っ」と首を竦めた。
かわいい。もっと、攻めたい。
そんな欲が簡単に膨れ上がりそうで、イヤになる。
だってさっき、乱暴した事を後悔したばかりだ。
なのに、こんなにもあっさりと新たに欲は湧き上がり、また、冷たい壁へ彼女を押しつけて思うままに愛撫をしてしまいたいと考えている。
彼女が首を竦めた拍子に離れた舌の先。
再び肌へ触れさせるよりも前に、一度、心を落ち着けるべきだ。
若干乱れつつある呼吸は、既に鼻呼吸ではなくなっている。
別に鼻詰まりでもないのに。……ただの、興奮で……だ。
――余裕が、ない。
いつもなら、もう少し落ち着いている。
私の大好きなひとは、人一倍いや人の二十倍は魅力的なひとだから、こういうコトをしてる時、私は随分冷静ではなくなっているけれど……それにしたって、いつもはもうちょっと落ち着いて気遣いも出来るのに。
今日は……何故だろう。
何が私をこうさせているのか分からないけれど……愛羽さんを……抱きたくて仕方ない。
今だって、腹の底でグラグラと煮立っている欲は蓋を押し退けんばかりの沸騰具合だし、落ち着けようと試みている呼吸だって、一向に落ち着く気配が見当たらない。
大丈夫か……?
自分の心配もさることながら、こんな私は愛羽さんの目から見て……怖くはないだろうか?
嫌な目にあわせたい訳じゃない。
私はただ彼女を抱きたい。欲しいだけなのだが……それでもこんな私の眼は、ひどく鋭利ではないだろうか……?
心配になった私は、抱き締めていた腕を緩めながら愛羽さんの顔を覗き込んだ。
「……」
こちらの気配に気付いた彼女が、こちらを見る。
既に熱に浮かされたよう水の膜を薄く張る瞳が、一度、揺れた。
綺麗だと瞬間的に思う瞳は、私を真っ直ぐ見つめてくれるけれど……そのおかげで、若干、こちらが照れてしまいそうになる視線の熱で、私は密かに奥歯をキュッと噛み締めた。
たった今さっきまで……見つめ合う以上の事をしてたのに。
体内へ感じる鼓動が、余計、速くなる。
熱いと感じていた自分の体温だって、もっと上昇したような気がする。
――い、イヤイヤこんな照れてる場合じゃなくて……!
怖がらせてないか。それ! それだよ!
胸中で当初の目的を思い出し、私は彼女の名を呼んだ。
「愛羽さん」
嫌な思いをしていたなら、何かしらの変化が眼や表情に現れるはず。
何ひとつも見落とさないようじっと見つめていると、愛羽さんが照れたみたいにはにかんだ。
どうしよう。かわいい。
戸惑うよりも思考停止してしまう可愛い笑顔にこちらが固まっている隙に、私の首に腕をまわし、ぎゅっと体をくっつけてくれる彼女。
――どうしよう。かわいい……っ!
悶えたい心境だ。けれど、彼女がこうして抱き着いてくれたなら、あの笑顔を見せてくれたなら、……たぶん……怖い思いは、させていなかったみたいだ。
よかった。
安堵する私へ抱き着いた愛羽さんは、低い体温の肌をこちらへ摺り寄せながら、小さく教えてくれた。
「なんか今日……すごいエッチな気分」
「え」
言われた意味を理解したときには、肩に、彼女の口付けを受けていた。
ちゅ。ちゅ。と意図的なのか、そうでないのかは不明だが、浴室内で木霊するリップ音を私に聞かせる愛羽さんは、柔らかい唇を鎖骨辺りへくっつけたまま、喋る。
「……強引にしても、いいから」
吐息多めで紡がれた唐突な宣言。
含む色気の量に、クラリとした。
腰の奥には、ジンと響くような快感。
――あぁ……愛羽さん。
溜め息混じりに胸の中で名前を呼ぶ。
それだけで、やっぱり、胸が苦しくなった。
同じように興奮してくれていたことも。
それを隠さずに、教えてくれたことも。
誘う目で、私を焚き付けたことも。
どれもこれもを用いて、愛羽さんは一瞬で、私をひどく、興奮させた。
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