隣恋Ⅲ~酔うに任せて~ 14話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 酔うに任せて 14 ~

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「だからねぇ」

 全くほんとにしょーがない子ね。と思いっきりカオに書いて、店長が私の方を向いた。

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 私の保護者なだけあって、こうやって最後まで面倒みてくれたりする店長は、口は悪いがホントに優しいと思う。

「金本さんがここで悩み相談したとして。それって、雀に直接言い辛いからここで吐き出してる訳でしょ?」
「はい」

 ここでしか、吐き出せない事だから蓉子さんに相談しに来るのだ。
 愛羽さんは言いたい事は言える人だから、言える程度の内容なら私に直接言う。

「じゃあその言い辛い事を、金本さん本人からじゃないルートで伝わって雀が知るのは、一見いいコトに思えるけど違うの。本人同士の会話能力が育ってないまま問題解決してしまうから」
「はい」

 言いたい事もいえずに、次のステップに自動的に進んでしまうと、成長のきっかけを失うという意味だ。

「そのことと。金本さんが雀を好きっていうことは、別物」

 アンタ自身もう知ってることでしょ。と呆れたように言う店長に、デコピンされた。

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「アンタが知らない事実を別ルートから入手するのが問題であって、周知の事実を聞くのはいーの」
「はぁい……」

 いたいなぁ……なんでデコピン。

 額をさする私の隣で、解説を終えた店長はやれやれと溜め息をついている。
 そうか。周知の事実はいいのか。と解説から得たことを自分の中に落とし込むように、心の中で繰り返していると、はっとする。

「もしかして、愛羽さんってここで惚気てたりしますか?」

 カウンターの内側の二人は、顔を見合わせている。
 それから同時にこちらに向き直って、ほとんど同時に口を開いた。

「ええ」
「もちろん」

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「めっちゃ聞きたいんですけどそれも駄目ですか」
「嫌よ面倒だもの」
「面倒ってどういう事ですか蓉子さんっ」
「デレデレしている雀を見たって面白くもなんともないもの」
「私は蓉子さんを楽しませる為に生きてるんじゃないですもん!」

 どうして私が雀を喜ばせるために惚気話を再現しなきゃいけないのかしら。と言いたげな顔で、蓉子さんは唇の端で笑った。

「私以外の人間は、私を楽しませるために居るのよ?」
「な゛……」

 なんつー人だ。

 前々から不遜な所あるなとは思っていたけれど、ここまで凄いとは……。

 言葉を失っていると、隣から腕を小突かれた。
 見れば、店長が呆れ顔で蓉子さんを指差している。

「アンタも自分に自信がないとか言ってないで、あんな人も居るんだから、オドオドしてないで胸張りなさい」
「……いやあれはちょっと真似できないデス……」

 さすがに、自分至上って普通に言い張れるような人間には、なれない気がする……。

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「雀の歳で自分に自信があったら相当のものと思うけれどね」

 不遜な笑みを柔らかなものに変えた蓉子さんが、ビールを呷る。そうしながら、何かを思いついたようで、口の中のものを流し込むと、私へと視線を向けた。

「二十歳になったら、どんな質問にも答えてあげる。ただし、ひとつだけ」
「え?」

 突然、なんだ。
 蓉子さんの言葉に首を傾げると、彼女は面白い事を思いついたとばかりに瞳に弧を描きながら、空にしたビール瓶をシンクに置いた。

「二十歳の祝いよ。ありきたりの物をあげてもつまらないし。そうねぇ例えば、愛羽がどんなふうに惚気ているかでもいいわ。私の体重でもいいし」
「いえ全く興味がないです」
「黙りなさい」
「ハイ……」

 怖え……。
 睨みで人殺せるんじゃないかこの人。

「私の貯金残高でもいいし、バーテンの極意でもいいわ。それこそ、愛羽の最新の悩みっていうのも、この時だけは解禁してあげる」

 あまりの魅力的な提案に、私は目を輝かせた。
 蓉子さんの隣で黙ったままでいるけれど、由香里さんは”いったいどういうつもりでそんな提案を……?”と怪訝そうな表情。

 店長はというと、呆れたように肩を竦めて自分のグラスを空にした。

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「ただし」

 蓉子さんは、ニンマリと笑う。

「それだけの責任を負うってことを覚悟して、質問の内容は考えなさいね」

 責任……?

 ……いったい、どういう意味だ……?

 私は彼女の言っていることがよく理解できなくて、その意味有り気な笑顔をじっと見上げた。

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