※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 酔うに任せて 13 ~
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「どうして雀だけ、自分の力だけでなく恋人を処理しようとするのかしら?」
鋭い切れ味をもった言葉が、私の胸に深々と入り込んできた。
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「愛羽は確かにきかん坊で相談をあなたにはしないかもしれない。だけど、あなたの心を誰かから聞き出している訳じゃない。それなのに、どうして雀は周囲から愛羽の心を聞き出そうとしているの?」
腕を組み、私を見下ろす蓉子さんの言葉は、辛辣とまではいかないが、的確に突いてくる。
「あ……」
「恋人だからって、他人の心を覗いてもいいのかしら?」
いい訳がない。
それで物事が円滑に進むかもしれないけれど、確実に駄目な方法だ。
「……確かに、由香里さんから愛羽さんの情報を聞き出すのは、愛羽さんに失礼ですね」
私は言葉を区切ったあと、蓉子さんから由香里さんへと視線を移した。
「それはやめておきます」
せっかくの申し出なのに、ほんとすみません。と加えていうと、由香里さんは眉尻をさげて、横に首を振った。
「こっちこそ出過ぎたことしてごめんね?」
「いいえとんでもない! 由香里さんは私の事や愛羽さんの事を思って、申し出てくれた訳ですからそんなそんな」
ぶんぶんと首を横に振り、手を振り。
由香里さんはちっとも悪くない。
私がちょっと小狡い手を使おうとしたから、蓉子さんが叱って気付かせてくれたのだ。
もっとちゃんと、自分の力でなんとかできるようにならないと。
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「ほら。叩けば育つでしょう?」
「結果論過ぎです。今ので折れたらどうしてくれるんですか」
フフンとばかりに蓉子さんが得意気な顔をする。
だけど私の保護者は、憤慨したような表情で杯を呷った。
そんな二人にちらと目をやって、由香里さんが微笑む。
「雀さん、愛されてるわね」
「感謝してもし足りないです本当」
横目で、折れたらまた叩けば立ち直るわよとか、叩き過ぎて性格曲がったら駄目でしょうがとか言い合いをしている二人。私は照れくさくて、頬をかいた。
だって、この師弟が言い合ってるのは私の事で、どちらとも私を成長させようとしてくれているのだから。
「もちろん、わたしも雀さんのこと、大切に思っているのよ?」
「ありがとうございます」
もちろん知っているとも、そんなこと。
自分の店のマスターにたてつくような発言をしてでも、私の気持ちを汲んでくれたこと。言い過ぎだと蓉子さんを咎めてくれたこと。
火を見るよりも明らかで、由香里さんにも私は大事にされていると感じた。
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でもね。と由香里さんは諭すような声音で静かに続ける。
「こうして皆から好かれているのは、全部、雀さんの力なんだから、そこの所は自信を持っていいと思うわ」
「え」
自信、という言葉が由香里さんの口から飛び出てきて、驚く。
まるで私が、私自身に自信を持てないでいることを、覚っているようなその発言。
「雀さんは元々謙虚な性格だけど、それ以上に、自分に自信ないでしょう?」
「……」
ズバリ言い当てられて、閉口する。
だけど、どうしてわかったんだろう。見ていれば、分かるものなんだろうか。
「……やっぱ、見てて分かります?」
「分かっちゃう、かな? だからこそ、色んな人の意見を素直に吟味して選択できる強みでもあるのだけど」
うーん。敏腕バーテンダーこわい。
全部見抜かれている。
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「由香里さんはなんでもお見通しなんですね」
「そんな事ないわ。見た事しか分からないもの。例えば、そんなに素敵なのにどうして雀さんには自信がないのか、分からないもの」
ふんわりと笑っているけれど、私を見下ろす瞳の芯は、笑ってない。
探るように私を凝視している瞳の芯に、私はどう映っているのだろうか。
きっと、由香里さんが私の過去に何があったかを知る事はできないだろうけれど、そんなふうに探る目を向けられると、どことなく後ろめたい気持ちになってくる。
「雀が自分に自信がもてなくても、愛羽は雀の事好きだから大丈夫よ」
いつの間に店長との言葉の応酬を切り上げたのか、蓉子さんがこちらに投げて寄越す台詞。それは明らかに愛羽さんの心を表したもので、さっきの話のくだりはなんだったのか。そんな情報聞いてもよかったのか。と狼狽える。
「……ねぇ、怜。雀って馬鹿なの?」
「あーまぁ結構馬鹿な所は馬鹿ですね」
狼狽えている私に、二人はズケズケとものを言う。
なんつーか、口が悪い人が集まると、メンタルがやられる。
「そんなに言わなくてもいいじゃないですか」
と、私は唇を尖らせた。
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