※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 酔うに任せて 11 ~
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「あー。由香里がうちのスタッフ口説いてる」
店長の茶々を入れる声が掛かるまで、私は正面のその人から、視線を外せないでいた。
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顎に触れていた冷たい指が離れ、私と視線を合わせていた由香里さんが、店長に顔を向けた。解けた視線にほっとして、一気に熱くなった顔と、速い鼓動を打つ心臓を落ち着けようとグラスに手を伸ばす。
「ごめんなさい。雀さんがどんな反応するのか見てみたくて」
「で? どうだった?」
謝るのは店長の方なのか。私じゃないのか。とツッコミたくとも、耳の傍に心臓があるような鼓動がジャマをして、口を開けそうにもない。
「一番S気質のある人間の意見としては、あんな可愛いカオされちゃうと、そそられるものがありますよ」
口に含んだドリンクを、吹き出すかと思った。
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私を置き去りにした会話は進んで、由香里さんの評価は続く。
「しかも普段は雀さんが抱く側なんでしょう? だったら余計、征服したくなりますね。それで下剋上したらあのカオ。そそられない訳がないです」
そこから店長と由香里さんの間で、なんだ誘い受けかとか、無意識ですから誘うというのも疑問がありますねとか、じゃあ無自覚誘いフェロモンかとか、そんな会話が続くもんだから、私は困り果てて蓉子さんに視線を投げた。
「黙ってないで助けてください蓉子さんっ」
「あら。うちの子がお客をそそのかす所見たのが初めてで店主としてショックを受けてたんだけど、慰めてくれるの?」
「なんでそんな事でショック受けてるんですか。蓉子さんはお持ち帰りとかするくせに」
恋人などの特定のひとを作らない主義の蓉子さんは、この店でお気に入りが出来ると、一緒に夜の街へと消えていくそうだ。
実際にその場面を私は見た事がないけど、蓉子さん本人もそう言っていたし、店長もそう言っていたから、事実なんだろう。
そんなひとが、スタッフが色仕掛けしててなんでショックを受けるのか。
私がそう突っ込むと、蓉子さんは何かにはたと気が付いたようで、腕を組み片手を顎にあてて、「そういえばそうね……?」と小さく呟いている。
その間にも店長と由香里さんの会話は進んで、私は”天然ボケ誘いフェロモン受けが頑張って普段攻めやってます子”という名前がついていた。
……意味がわからない。
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私は飲み干したグラスを由香里さんの方へ寄せて、「おかわりください」と大き目の声でオーダーした。
まったく。これ以上由香里さんと店長の会話を続けさせると私に超長いあだ名がついてしまいそうだ。
「はいはい」
肩を竦めた蓉子さんが氷をシェイカーに詰め始めて、その横で、由香里さんがいつものふんわりとした笑顔を浮かべて、空グラスを引いた。
「まぁでも、しっかりしているように見えて、愛羽もあれで結構子供だから」
「愛羽さんが子供とかありえないでしょう」
私の事が大切だからこそ、未来の約束はしてあげられない。ただ、二人でずっと一緒に居られるように努力は怠らない約束はする。
そう明言してくれるようなひとなのに、どこがコドモか。
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「例えば、頑固な所とか」
「頑固……?」
蓉子さんの例えばの話に、首を傾げる。
頑固かなぁ?
「頑固って言う分かりにくいから、どちらかと言えば、きかん坊って方じゃないですか?」
店長がそう助け舟をだして、蓉子さんが頷く。
「こうと決めたらこう。そこに相談はあまり存在しないわね」
「……そうなんですか?」
あまりピンとこなくて、蓉子さんの話にやはり首を傾げる。
だって、愛羽さんのきかん坊の所なんて思い当たる節がない。それこそ、私が困るようなワガママをぶつけられた事なんてなくて、いつも包み込むみたいに優しくしてくれていると思う。
しかし、私の前にカクテルグラスをそっと置いた蓉子さんは、苦笑した。
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