※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 酔うに任せて 9 ~
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「愛羽とはどうなの? 最近」
私の前に、今度はオレンジ色の液体で満たされたグラスが置かれた。
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「愛羽さんですか?」
「特に問題なく、っていう面白くない話はナシね」
横から店長の鋭い制限が来る。
……むぅ……。困った。
最近あった事といえば、あれしかない。
さっき蓉子さんにもふわっと伝えた、蓉子さんに嫉妬して、エライ夜になったというあの事件。
「あ、ちょっと赤くなってる」
由香里さんが面白がるみたいに私の顔面の変化を指摘する。
もう、これだから腕のいいバーテンダーは困る。眼が良くて、すぐに人の変化を察知するんだもん。
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そうなってくると、もう蓉子さんと店長のタッグからは逃げられない。
何があったか白状するまで、解放もらえない。
「雀が赤くなるってことは何かしら」
「相当の何かですよ」
蓉子さんと店長は明らかに面白がって、ふたりで相談するみたいに言い合っているけど、こちらに聞かせる為にやっている。
「分かりましたよ言いますよ」
半ばヤケになって白状宣言をする。
オレンジ色の液体を一気に飲み干してから、まず「おかわり」と言う。
「あんなにイッキしてからじゃないと言えない何かがあるんですってよ蓉子さん」
「これは楽しみね」
早速私の次のドリンクを作り始めながら蓉子さんは店長に返事をする。
なんか、こういう息ピッタリな所をみるとやっぱり師弟だなと思う。
辱めを受けるこちらはいい迷惑だが、仲良しだなとほっこりする部分が、なくはない。
蓉子さんがドリンクを作り終わるまでは話してやらないぞとばかりに残りのピザを平らげる。
そんな私の正面に立っている由香里さんと一度目があったので、失礼ながら二人を指差した。
「止めてくださいよ、由香里さん」
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すぐさま、「無礼者」と言った店長が私の手を武士の斬り捨て御免のように叩き落とす。
由香里さんは小さく笑って肩を竦めて、瓶ビールの栓をあけて、グラスに注いだ。
きっとあれは自分で飲む用のものだ。
つまりは、「わたしにあの二人は止められない」と「止める気もなく、わたしも雀さんの話を楽しみにしているわ」という意味がある。
「きっとここに愛羽さんが居れば助けてくれるのに」
思わずぼやいたら、店長に口笛を鳴らされた。
中学生みたいな煽り方だな……。
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それからすぐに、私の前にドリンクが置かれた。
「で?」
蓉子さんの短い一言。
さぁ話せ、と言わんばかりの。
「……この間、蓉子さんがシャムに来られた日」
かくかくしかじか。
嫉妬したこと。
愛羽さんにそれがバレたこと。
彼女に、抱かれたこと。
気がおかしくなりそうなくらいだったこと。
立場がいつもと逆転して、いろいろと気付くことがあったこと。
などなど、ほんと、一人で20分くらいは喋っていたんじゃないかと思う。
さすが3人とも腕の立つバーテンダーなだけあって、話を聞き出すのが上手だ。
せめて、自分の心境の変化というか、逆の立場になって気付いた事とかは言わなくていいか恥ずかしいし、と思っていたのに、さらりと聞き出されてしまった。
ほんと、バーテンダーって怖い。
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