※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 酔うに任せて 7 ~
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「んっんぅ……ッ!」
訳。あっつぅ……ッ!
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熱かった。口の中に火でも放り込まれたんじゃないかと錯覚するくらい熱かった。
ていうか、歯が熱い。主に上の前歯の裏のとこ。歯の裏のくぼみに熱々とろとろのチーズが食い込んで、尋常じゃないくらい熱い。
とりあえずピザを噛みきって、お皿の上に置いた。
すぐさま手を拭って、緑色の液体を湛えたコリンズ・グラスを掴んで、中の冷えたそれを口に含む。
そんな私を気の毒そうに見つめる人ひとり。心配そうにしながらトールグラスに氷をたっぷり入れて飲料水を注いで、私の手元に置いてくれる人ひとり。
そして、笑っている人ひとり。
誰がどの人かは、言わずもがなであろう。
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とりあえず、口の中が冷えたのでゴクンとぬるくなった液体を飲み下した。
「熱いから気を付けてって言われたのに。アタシを無視した罰があたったわね」
「うー……」
熱い。幸い火傷まではしなかったけれど、ジンジンする。
「もうちょっと冷めてからいただきます」
「そうしなさいな」
苦笑交じりに蓉子さんに頷かれる。
その隣で自分が熱い思いでもしたかのように、痛そうな表情を浮かべていた由香里さんが心配そうな眼差しのまま、宙ぶらりんになっていた店長の質問に答えた。
「確か、はらぺこあおむしって、幼稚園とかで習う歌よね?」
「そうです。姪っ子が歌ってましたよ」
「へぇ」
特に興味もなさそうに、店長がマティーニの最後の一口を含んだ。
自分がきいておいて、その素っ気無さはなんだ。
「雀の姪っ子っていくつになったの?」
「今3歳です」
「可愛い盛りねぇ」
目を細める蓉子さんはどうやら子供好きみたいだ。
由香里さんは見るからに子供好きっぽそうだし、この中で子供が嫌いと明言するのは、店長だけのようだった。
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「雀さんのお兄さんの子?」
「ええ。一番上の兄です。昔は子供なんていらないとか言ってたくせに、可愛い奥さん貰ってすぐに子供作って、今となっては仕事を早めに終わらせて帰宅するくらいには性格変わったみたいですよ」
年の離れた兄の顔を思い浮かべながら、苦笑する。
仕事ばかりで家に帰るのは寝る為だけだと言っていたのに、「嫁と子供が待っているから」という理由で定時にあがるような変わりっぷりらしい。
まぁ定時上がりにする為に、勤務中は尋常じゃないくらいの集中力で仕事に励んでいるようだが。
「ふぅん、あの男が。……変われば変わるものねぇ」
しみじみと呟いて腕を組んだのは蓉子さん。
彼女と兄は、兄の仕事を通じて、知り合ったそうだ。
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「蓉子さん、ヘルメスください」
「ん」
マティーニを飲みきった店長が、オーダーする。
店長も私の兄とは知り合いだが、兄を苦手とよく言っている。店長曰く、「仕事はできるが堅物すぎる男」で苦手なんだそうだ。
兄の話題を切り替えるようにオーダーをしたのだと丸わかりだが、自分のオーダーと同時に、由香里さんにもお酒を勧めている所は、スマートだなと見習いたくなる。
「じゃあ怜さんのピザが焼けたら、ビールをいただきますね」
「焼酎とかじゃなくていいの?」
「さすがに開店近くからそれはしないですよ」
じゃあもっと時間が深くなれば焼酎までいくんだ……。と由香里さんの言葉に、内心舌を巻く。
さすが、店長も蓉子さんも凌ぐ、酒豪。いやもう、酒豪というか、ザルというか、もう枠しかないような人だから。
由香里さんはあんな可愛い容姿だし、喋り方もおっとりしているのに、誰よりもお酒に強いのだ。
そのギャップがまた面白いと、蓉子さんは言うけれど、そこまでお酒に強くない私からしてみると、ある意味モンスターだ。
だけど普段は、彼女のおっとりキャラに、そのモンスターの性質を忘れてしまいがち。
それで一度一緒に飲んだとき、同じペースで飲んでしまって大変な思いをしたと蓉子さんがぼやいていたことがある。
やっぱり、人を見かけで判断しては、いけないのだ。
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