※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 51 ~
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「うん。いい子」
よしよしと本当の幼子のように頭を撫でられて、わたしは口をへの字に曲げた。
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「雀ちゃん年齢詐称とかしてない? なんでそんな大人なの格好良すぎるんだけど……」
情けない声で一息にそう告げて、わたしは自身の顔を両手で覆ってそのまま彼女の肩口に押し付けた。
雀ちゃんの格好良さや、自分の幼さを再確認したことで、彼女に向けられる顔なんてない。
相変わらずわたしの携帯電話はバイブでローテーブルをガチガチと打ちつけていて、そろそろ精密機器だし壊れるんじゃないかと心配になってくる。
「免許証見せましょうか?」
くすりと小さく笑って言う雀ちゃんが、いつもの口調に戻った。
切り替えが早い。
さすが、年齢詐称を疑うほどの魅力を持つひとは、理性が強くて常識的でいらっしゃる。
「雀ちゃんが嘘つく訳ないもの、いいわよ……はぁぁ……もう……今日だけで三日分くらい心臓ドキドキしてる」
一生のうち、心臓の打つ回数が決まっているならば、確実に今日で寿命が縮まった。
そのくらい、わたしは彼女の虜なのだ。
それこそまだ、顔を上げられないくらいに。
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どっく、どっく、と大きく打ちつける心臓の音が、まだ耳に近い。
「……すき……」
手のひらに小さく呟くのは、ほとんど無意識に溢れた心の声だったけれど、肩口で呟けばそれは相手の耳に飛び込み、わたしの気持ちを伝えてしまう。たとえ、無意識のものであっても。
「私も好きですよ」
「……、だめ。言わないで。余計どきどきして電話出られない」
「好きです」
「~~~~っ言わないの……!」
揶揄い半分、本音半分といったところなのか、雀ちゃんは意地悪をする。
早く電話をとらなければいけないから、彼女の顔も見ずに平静を取り戻そうと努めているのに。
手で覆った顔がまた熱くなった気がして、彼女の肩口に額をゴンと打ちつける。
そんな頭突きまがいの事をされても、雀ちゃんは気を悪くするどころか、楽しそうな笑い声をあげて、わたしの身体を両腕でぎゅっと抱き締めた。
「っ、だからそういう事されると今はっ」
「掴まってないと落ちるかもしれないですよ」
単純に、まだ悪戯したくてわたしを抱き締めたのかと思えば、思いの外真面目な声で注意された。
でも、落ちるとかそんな事を突然言われたから対処できるような運動神経は持ち合わせていない。
結果、いきなり前屈みに身を乗り出した雀ちゃんに片腕で抱き留められたまま、わたしはコアラのようにしがみ付くしかできなかった。
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「な、なんで急に立つの……!」
今までとは違う意味で心臓をバクつかせながら、わたしを抱えたままテーブルの方へ身を乗り出した雀ちゃんを咎める。
ほんと、彼女の注意と、抱き締める腕がなければ、わたしは雀ちゃんの膝から滑り落ちてローテーブルに体を打ちつけていたことだろう。
よいしょ、と呑気な声とともに、彼女が元のようにソファに座る。
驚きと恐怖にじっとりと手に汗を握っているわたしの目の前に、ひょこ、と差し出されたのは、わたしの携帯電話。
いつの間に鳴り止んだのか、着信画面ではない。と、思った瞬間に再び鳴り始める。
「ケータイ取るから首に手を回してくださいって言っても、愛羽さん照れてしてくれそうになかったので。あと、さすがに、そろそろマズイのかなと思ったので」
だから、強引に突然に、わたしを抱いたまま立ち上がって……というよりはテーブルの方へ身を乗り出して携帯電話を取ってくれたらしい。
「あ、ありがと……」
一応、取ってくれた事にはお礼を言うけれど……危ないなぁ……と文句も言いたいところ。
なんとも微妙な心持ちが顔に出ていたようで、雀ちゃんはわたしに意味有り気な笑顔を向けた。
「放したくないって言ったでしょう? 仕事道具取りに行くなら仕方ないですけど、電話だけで済む仕事なら、ここで済ませてください」
放したくないから。
と含ませた物言いでもう一度繰り返す雀ちゃん。
その言葉は先程、炎を宿した瞳でわたしを見つめ、彼女が告げた言葉。
まるでその時を思い出させるかのように、繰り返した彼女の意図はそこにあるのだろう。
まんまと策に嵌ったわたしは、ばふ、と顔を赤色に戻して、慌てて雀ちゃんの手から携帯電話をひったくるように受け取った。
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