隣恋Ⅲ~宿酔の代償~ 43話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 宿酔の代償 43 ~

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「やっぱり、まだ勝てないか」

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 ――は?

 気を抜いていたら多分、そんな声が口から出てしまっていたと思う。
 そのくらい、雀ちゃんの台詞は、脈絡がなかった。

 そんな予想も出来ない台詞を吐いた彼女は、目をまん丸くしているわたしを見下ろして、おかしそうに笑う。けど、急な展開についていけないわたしは、未だ目を丸くしたままだ。

 そんな折、テーブルの上の携帯電話が一度、ブルリと震えてテーブルを鳴らしたけれど、今はそれどころじゃないとばかりに、視線をやることさえしなかった。

「あぁ、これくらいインパクトあれば、勝てるのか」

 はぁ……?
 意味が、わからない。

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 謎に包まれ過ぎている彼女の台詞が増えた。
 勝てないとか勝てるとか、一体なにと、彼女は競っているのか。

「ぁ、の、雀ちゃん?」

 いつの間にか、瞳に宿していた剣呑な光さえ、どこかにいってしまって、彼女の心境さえ推測できなくなってきた。

「仕事だいなり私の状態を、私だいなり仕事にするのが目標」

 悪戯っぽく目を細めた雀ちゃんが、ゆっくりとこちらへ顔を寄せてくる。
 その行動はキスをする為の動作だと分かるんだけど、彼女が言った言葉の意味を反芻しているわたしは素直に唇を重ねた。

 仕事、だいなり? だいなりって>のこと?

 仕事>雀ちゃんを、雀ちゃん>仕事にするのが目標?

 仕事より、彼女を優先させるようなわたしにするのが目標ってこと?

 首を傾げたくとも、彼女に口を塞がれた状態では、動くことも叶わない。
 キスより、話がしたいんだけど。と言いたいけれど、それも、叶わなかった。

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 口付けから解放されると、舌が軽く痺れるような快感が残っていた。
 ジンジンするその舌で言葉を紡ぐよりも先に、雀ちゃんの唇がわたしの首筋に降りて、声をなんとか堪える。

「とりあえず」

 顎のラインに唇を触れさせて、そのまま、ツゥ…と鎖骨へ滑り降りる柔らかな唇。

「電話が鳴ったら即座にとる状態から」

 鎖骨の端から端を辿ろうとするけれど、服に邪魔されて、また首へと戻ってくる唇。

「インパクトのある行動をとれば目も逸らせないでいる状態まで変化させられた」

 今度は舌を出して、べろりと唾液を肌に滲み込ませるよう舐めていく雀ちゃん。
 身体が震えそうになるけれど、彼女の言葉を聞かなければと必死に歯を噛みしめて、嬌声を押し殺す。

「だから、まぁ、今日は、いいかと」

 下から上へ舐め上げた彼女の舌が、その先端を尖らせてわたしの耳へと近付いてゆく。
 耳たぶに触れた、と思った瞬間には、一度その熱が離れて、与えられたのは、掠れた囁き声。

「思うけど、やっぱり傷付いたし、電話の相手にはむかついたから、責任」

 妙な所で言葉が切れたなと思っていると、ぐじゅりと音を立てながら熱が耳に侵入してきた。
 不意打ちに思わず、嬌声をあげて身を捩ると、雀ちゃんは片手でわたしの頬を捉えて、固定した。

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 動きを封じられたわたしは耳を攻められるがままだ。
 弱点と自他共に認めるそこを、執拗にくちゅくちゅとかき回されて、脳が溶けそうな感覚を味あわされる。

「やっ……ァッ……は、ぁンっ」

 じわ、と下腹部からまた愛液が滲む熱を感じとり、腰が震える。

 顔を固定されて、逃げることすら許されずに与えられる快感に、感じている自分が恥ずかしくて。でも、気持ち良くて、身体は火照る。

 すぐにあがってしまう息で酸素をなんとか取り込みながら、彼女の手首に手をかけた。顔を固定するこの手がなければ、せめて、顔を背けて、僅かながらの抵抗が出来るのに。

「ひ、ぁッ、やん……っ」

 抵抗と言っても、彼女の愛撫が、嫌な訳では決してない。
 この脳を溶かすかと思うくらい熱くて、直接触れるまでもなく下腹部を濡らす程甘やかな快感を、持て余しているだけなのだ。
 嬌声をはじめ、身を捩ったり、彼女を押し返したり、そういう抵抗は身体に収まりきらないその快感を逃がす為の行動で、愛撫を拒みたい訳ではないのだ。

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