※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 41 ~
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「あぁ……やばいな」
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雀ちゃんが独り言のように言った。
恥ずかしさから逸らしていた視線を戻して彼女の様子を窺ってみる。
先程の呟きは嬉しそうで、困ったような、「あぁやばいな」だったけれど、「やばい」には色々な言葉の意味があるので、わたしはその真意を図りかねた。
一体なにが、「やばい」というのだろうか。
その発言をした本人は、ぎゅっと目を瞑って、何かを堪えるような、耐えるような仕草をしている。
「雀、ちゃん…?」
「ぅん? ああ、ごめん」
呼びかけに片目を開けた雀ちゃんは、両瞳にわたしを映すと、その目元を和らげた。
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「可愛い過ぎて、堪えてたところ」
「?」
「ベットがいいとか、服引っ張るとか、可愛い過ぎるってこと」
優しい顔を見上げながら、つい、指摘された手をぱっと放す。すこしだけ皺になった彼女の服にチラと視線をやって申し訳なく思っていると、上から「あーもー」と嬉しさを滲ませる声が降ってきた。
「可愛い過ぎて、ベットまで待てない」
頬にキスをされて、さらに「可愛い」とうわごとのように繰り返す雀ちゃんは、そのまま耳にキスを落としてくる。
吐息や囁く声にゾク、と肌が粟立って、一度放した肩口の服に、再度、思わず、手がかかる。
「、っと、す、ず……め」
「わざと? 煽ってるの?」
そんなつもりない。
なのに彼女は、責めるみたいに、わたしの耳を歯で挟む。強めの刺激に肩を跳ねさせつつ、「ちがう」と途切れ途切れに言うけれど、その力は弱まらなかった。
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耳を挟んだ歯の間から、呼気がフゥと漏れてくる。当然それは耳にぶつかり、わたしに快感を残して無責任に霧散する。
「ゃ、み……み」
「んん?」
耳? とオウム返しに尋ねたのだろうけれど、それすら、快感を伴って鼓膜を震わせ、脳を犯す材料になる。
わたしが、耳も首も弱点だと知ってやっているのだから、雀ちゃんこそ、わざとわたしを焦らして苛めているのではないだろうか。
「や、ぁ……っ」
ご飯を目の前に置かれて「待て」と言われた犬よりも、獲物を目の前にしている肉食獣に近い。
その欲情を隠しもしない吐息から逃げたくて、肩口の服を掴んでいた手で、彼女を押し返すが、びくともしない。
ならばと顔を背けるように横を向けば、やっと彼女の口から耳は解放された。
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腰が抜けてしまいそうな感覚と、首や後頭部、さらに肩や二の腕まで広がった鳥肌は、なかなか収まりそうもない。
一瞬であがった息を整えようと必死に呼吸を繰り返すわたしを、じりりと焼け付くような強い視線が舐めまわす。
「そんなふうに逃げて、色気振りまいて、余計、煽るだけだよ?」
逃げたのは逃げたけど、色気振りまいたりしてない! と言い返そうと口を開けば、突然、横のローテーブルから、バイブの音と震える携帯電話とテーブルがぶつかる音が、鳴り始めた。
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バイブで携帯電話がぶるぶると震えているけれど、それがテーブルとぶつかって、ガチガチ音を立てている。
二人とも、夢中という言葉がしっくりくる程に目の前の相手にしか意識が行ってなかったせいで、弾かれたようにそちらに顔を向けた。
わたしに至っては、ほんとに、心臓が口から飛び出るんじゃないかと思うくらいに、驚いた。
先程とは違った理由でドキドキしている胸を落ち着かせようと努めながら、携帯電話へと手を伸ばす。
「んぅっ……!?」
起こしかけた上体は、奪うような口付けと共に押し戻され、背中をソファにつけた。突然の強引なキスに目を閉じる暇もなく、その乱暴な行為を働く犯人を見上げる。
キスの時は目を閉じる彼女が、いつもと違って、目を開けたままキスをしている。
そして。
怒った様子で、わたしを睨んでいた。
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