隣恋Ⅲ~宿酔の代償~ 40話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 宿酔の代償 40 ~

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 喉が、熱い。

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 ――溶けそう。

 雀ちゃんの熱っぽい瞳に見つめられて、飲み込んだそれ。
 ゆっくりと上下した喉の内側を伝ってゆく彼女からの贈り物が、熱湯みたいに熱い。その熱に身体が溶けてしまいそうだと感想を抱くくらいには、思考能力が溶けているらしかった。

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「いい子」

 宿した炎をゆらり揺らして、雀ちゃんが微笑む。
 嚥下したわたしを見下ろして、甘い声色で囁いた。

「今、この辺りかな?」

 ソファの肘置きに押さえつけていたわたしの手を解放して、雀ちゃんはその手の指で左胸の下を指す。
 人間がものを飲み込んだら10秒ほどで胃に到達する。それを知っているのだろう。彼女は、自分が飲ませたものを、再確認させるように、何本かの指でそこを押さえる。

 呼応している訳ではないだろうに、唾液がある胃がカッと熱く感じるのは、きっと錯覚。気のせいだ。
 わたしが飲み込んだのは、熱湯でもないし、激辛のものでもない。胃の位置が分かるくらいに熱を帯びるものでもないのだから、この熱く感じられるものは、気のせいだと片付けるしかない。

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「嫌がってないし、結構、まんざらでもない?」

 わたしが視線を逸らす事も出来ずに見上げていると、雀ちゃんはすこし意地悪な笑みに顔を変えた。
 普段の生活ではそういうカオをしない彼女の貴重な表情を目の当たりにして、さらに、図星を指されて、わたしはやっと、視線を逸らす。

 あからさま過ぎる自分の態度に、我ながら認めているようなものだと自覚はするけれど、紡ぐ言葉が見つからない。
 黙るわたしに、小さく笑みを零した雀ちゃんが顔を寄せた。

「かわいい」
 

 言い返すはずのいつもの台詞は、彼女からのキスによって飲み込まれた。

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「ねぇ」

 小さく幾度も啄まれるキスの合間の声に、薄く目を開ける。
 徐々に忙しなくなる自分の呼吸を遮ってくる彼女の口付けが、甘く憎らしい。

「抱きたい」

 直球。
 それこそ、ドが付いてもおかしくないくらいに、直球で分かりやすい訴え。

 オブラートに包むことさえしようとしていない彼女に、思わず目を見開いてしまうと、こちらを流し見た彼女に、小さく笑われた。

「ここで、始めていい?」

 抱いてもいい? という質問ではないところが、わたしの心を見透かされている証拠。
 抱くのは前提。両者合意の上で、このソファで始めてもいいかと。

 その余裕に満ちたセリフに、反抗したい気持ちが芽生えなくもないけれど、彼女が見透かしている通り、わたしの心も身体も、彼女を求めて止まない。

 ――でも、せめて……この明るい電気の下じゃなくて……。

「ベットが、いい」

 布団にもぐれる方が、やっぱり、恥ずかしさは軽減するから。
 視線を逸らしたまま、彼女の肩口の服を握る手に、わたしはぎゅっと力を込めた。

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