隣恋Ⅲ~宿酔の代償~ 35話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 宿酔の代償 35 ~

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 両手を、彼女の両耳に。

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 ばくばくと鳴り続けている心臓を「ちょっとは静かにしてよ」と叱りつけても、一向に収まる気配がない。だけど、もう、しょうがない。
 心音のことは、無理矢理にでも気にしないように心がけつつ、わたしは指先に意識を向けた。

 外耳に四本指をかけて、親指は頬にそっとあてる。
 ゆっくりと四本指を滑らせるように耳の縁を撫でつつ、雀ちゃんの下唇を軽く、唇で挟む。

 閉ざされたままの唇を解すように、数回、啄んだ下唇は、女性の一般的な唇の形よりは、少々薄めだ。
 だけど決して、男性みたいな硬さではなくて、やっぱりこの子も女性なんだなと思わせるような、どこまでも柔らかな唇。

 きっと、この唇にこうして触れるのを許された人は少ない。……と、思う。思いたい。

 雀ちゃんと過去の恋人の話はあまりした事がないので、なんともいえないのだけど、”受け”にあまり慣れていない初心な姿を度々みるので、希望的観測も含めてわたしは勝手にそう思っている。

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「……」

 小さく、吐息をつくようにして、結ばれていた唇がようやく開いた。
 熱い呼気がわたしの唇や頬を撫でて過ぎてゆくのを感じつつ、開いた唇の間にこちらの下唇を軽く押し込むようにして、雀ちゃんの上唇を挟んだ。

 触れるだけのキスの時は、微動だにしてくれなかったけれど、どうやら、ここまでくると、少しは応じてくれるようだ。
 タイミングを合わせるように、わたしの下唇を挟んで、軽く吸ってゆく雀ちゃんのキスに、不覚にも、息が、震える。

 おまけに、胸も震えてくるものだから、もう、どこまで自分が惚れ込んでいるのかと不安を覚えるほどだ。

 思わず、耳朶を撫でていた指が跳ねて、彼女の耳裏の皮膚を爪が掠めた。
 急な動きで驚いたのか、はたまた運よく感じてくれたのか、彼女が「ぁっ」と小さく声をあげた。

 正直、助かった。
 彼女に啄まれただけで、項が粟立つほどに感じていたわたしは、すぐに呑まれてしまいそうだったから。

 これ幸いとばかりに、一度キスを解いて、一度深呼吸をして、再び、雀ちゃんと唇を重ねた。

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 あまり悠長にやっていると、また呑まれてしまうかもしれない。
 その前に、こちらが完全にイニシアチブを握らないと。

 ”攻め”になりきるなら、完全掌握してしまいたい。

 重ねた唇の隙間から、ゆっくりと舌先を侵入させて彼女の唇に触れる。上下のそれをなぞりながら、今からこの舌が貴女の中に入るのだと、想像させ、期待をかきたてる。

 人間の脳は無意識に、少し先の未来を予測しながら生きているものらしく、その脳の働きは、こういう時には性欲を煽る為にも利用できるのだ。

 ゆっくりと、じっくりと。
 逸る気持ちを、焦らすように。

 舌先1センチの愛撫で、彼女の心を少しずつ乱してゆく。

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 ”攻め”の立場になって初めて分かることというのもあって、それは自制心や冷静さの必要性。
 だって、どんなに相手が好きで、可愛くて、滅茶苦茶にしたくなっても、更なる快感を与える為に、自分の欲望を剛速球でぶつけてはいけないのだ。

 相手を好きな気持ちが大きければ大きい程、比例して自制心と冷静さが非常に重要になってくる。

 熱と快感にまみれた訳もわからなくなるようなえっちも時にはいいけれど、毎回そんな情熱的なえっちをしていたのでは、身が持たない。

 だからこそ。

 こうして、欲しがるように相手が、わたしの舌先2センチ以上を咥えようとしてきたら、こちらは、するりと躱して、悪戯に彼女の口端を舐めてやるのである。

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 だんだん、雀ちゃんのペースが乱れてきた。

「……は……」

 呼吸に声が交じってくれば、感情も昂っている証拠だ。
 片手の指で耳の縁をなぞりつつ、もう片手は首筋から鎖骨あたりを柔らかく撫でる。 

「ん、く……」

 ほら、これだけで、可愛らしい声を、聴かせてくれる。

 欲しいのに、与えてもらえないそのもどかしさは、よぅく知っている。

 だって、この焦らし方は、雀ちゃんの真似だから。

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