※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 32 ~
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「こんなに可愛くないって言葉が似合わないひと、私は他に知らないから」
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出た。
なんなの。
たまに彼女の口から出てくるイタリア人みたいな台詞。
どこでそんな事覚えてくるのよ、と思う一方で、やっぱり、口説き文句を真っ直ぐに贈られて、嬉しくない訳がない。
しかも、頬にキスしてそのまま耳に口を寄せて囁くもんだから、脳が溶けるかと思った。
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囁いて満足したのか、それとも、わたしがどんな反応をしているのか見たかったのか。
きっと、後者だろうけど、このエセイタリア人は、わたしの顔を見下ろして、にっこり笑った。
「そんな、顔真っ赤にして。可愛い」
普段なら、「るさい」と一言言ってやれるのに。
頬に手を当てられて、すこし距離のあった顔をまた近付けられて、口を噤む。
「可愛いよ」
一段低くなった声で囁かれて、また、心臓が痛くなる。
さっきからこんなに心臓を酷使して、発作でも起きてしまうのではないか。そう思ってしまうくらいに、どきどきして、バクバクして、治まりをしらない心臓。
――普段、どのくらいゆっくり鳴ってたっけ……。
平素の心音を思い出せないくらいには、わたしはパニックらしい。
「……ちょ、…と、待」
「待てない」
口を、塞がれた。
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強引に奪われた唇を割って、熱を帯びた舌が侵入してくる。
抗う術もなく、彼女の舌に絡めとられながら、自分がそれを嫌がっていない事実を、思い知らされる。
「ふっ、……ん、……ンっ」
そもそも嫌がるどころか。
――うそ…っ、ぁ、……ッ。
下腹部で、じゅん、と溢れたナニか。
ナニかが何だなんて、分からない訳がない。
だって、これはいつも雀ちゃんに抱かれる度、味わう感覚。
愛液が体外へ溢れる感覚だ。
だけど問題なのは、その感覚を味わうのが、早すぎるということ。
だってまだ、キスしかされてない。
なのに、濡れる理由に、思い当たってはいるのだけど……それを認めたくない自分がいる。
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――だって、そんなの、認めたら……ただのスキモノみたい、だし……。
「ん、ぅ……んっ」
強引にキスされて、支配欲の塊みたいなキスされて……濡れるくらい、感じました、とか……。
考えただけで、顔に熱が集中してしまうし、心臓が余計高鳴ってしまう。
思わず、彼女の首に回した腕に力を込めると、不審に思ったのか、雀ちゃんがするりと、口付けを解いた。
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解放されて、まず、乱れた呼吸を整える。そんなわたしの顔を覗き込む雀ちゃんの瞳には、心配そうな色。
「へいき?」
「え?」
「なんか、ぎゅってしたから……」
まさか、愛液が溢れた感覚で、とも言えず、こくんとだけ頷く。
「重たかった?」
言葉と共に、ふわっと軽くなる重圧。
いつの間にか、雀ちゃんの体重はわたしに多く掛けられていたようだけど、別に気にならない。というか、そうやって体を浮かせて気を遣われるほうが、さみしい。
「そんなことない」
離れられた事で、二人の間に空気がすぅっと入り込んで、こもっていた熱気が逃げてゆく。
それもまた、なんだかさみしくて、わたしは、彼女の首にひっかけた腕で、くいと引き寄せた。
「もっと、くっついてたい」
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