※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 30 ~
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熱い舌が、わたしを催促する。
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頑なと言っても過言ではない程に、閉じた唇を雀ちゃんの舌先が舐める。
ぷるりと揺らされる度に、わたしの理性はぐらつく。
――だ…って……シャワー浴びてない、のに……。
女として、どうなのか。
一日働いてきたままの体。土木関係の仕事みたいに汗をかくような業種ではないものの、やはり、じんわりと汗はかくし、皮脂は浮いてくる。
お化粧だってまだ落としてないし、このまま抱かれたら絶対、ラインが滲んで目の周りを真っ黒にしてしまう自信がある。
そんな顔をみられて、汗の臭いを嗅がれて、幻滅されたくない。
好きだからこそ、嫌われたくはないのだ。
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だけど、彼女からの甘い誘惑に、自制心や理性や冷静さが、見る間に失われてゆくのが分かる。
今すぐ、唇を開いて、彼女の舌と自分のそれを絡めて、脳が溶けてしまいそうな程気持ちいいキスをしたい。
こちらの気持ちを見透かしているのか、緩慢な動きで唇を撫でてくる雀ちゃんの攻撃に、陥落してしまいそうになる。
彼女だって、焦れているだろうに、それを微塵も感じさせないような丁寧な動きに、わたしの方が、焦れてしまう。
「……っ、ん……ぅ……」
鼻から抜ける声も軽く震えて、肌が粟立つ。二の腕なんかもう、ぞくぞくして仕方ない。
いっそのこと、強引に、閉じた唇にその舌を捻じ込んで欲しい。
そうすれば、”仕方ない”と言い訳できるのに、雀ちゃんは無理強いしたくないのか、わたしが自分から深いキスをするように促してくるのだ。
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どれだけ昂っていても、本当に嫌ならば抵抗できる瞬間を、雀ちゃんは作ってくれる。
だから、どうしても譲れない理由があって、行為をしたくないときは、非常にありがたい気遣いなのだけど……今は……。
全てを奪い取るよう強引に迫って欲しい。
そんなハシタナイ考えを抱いてしまうようになったのは、いつからだろう。
以前付き合っていたひととのえっちは、そこまでしたいと思えなくなっていたのに。
年齢からくる性欲の減退かとも思っていたのだけど、この状況を見るとやっぱり、人が原因だったのかもしれない。
「ねぇ……愛羽さん」
雀ちゃん以外のひとの事を考えた瞬間、彼女がすこし離れて、ギクリと肩が震えた。
もしかして、考えに集中しすぎて、上の空で、不審に思われたのかもしれない。
はっとして瞼を開けると、思った以上に近い距離に雀ちゃんの顔。
至近距離で見つめる瞳に射貫かれて、わたしは目を見開いた。
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「好き」
軽く弧を描くように目の形が、柔らかくなる。
言葉と共に、気持ちを体現するような瞳を見せられて、胸がきゅうと締め付けられた。
「好きだよ」
わたしが返事をするよりも前に、重ねて告げる雀ちゃんの声は、どこまでも優しくて、どこまでも丸い。
わたしに対して、雀ちゃんが棘のある言葉や声色を投げつけてきた経験はないけれど、今の声は、彼女の中で最上級に丸くて優しい声だった。
そんな声で好きだなんて言われて、胸がときめかない女はいないし、心臓が走り出さない女はいない。
「好きだ」
積み重ねられる告白に、息苦しくなってゆく胸。
締め付けられ、ときめきに切なくなる胸元に、わたしはあえぐよう喉を鳴らした。
押し倒されて、じっと瞳を覗き込まれたまま、囁かれる。
そんな状況にドクドクと耳元で鳴る鼓動がうるさい。
きっと、わたしの顔は、また真っ赤になっている。
「愛羽」
自分でも、分かるくらいに、瞳が、大きく揺れた。
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