隣恋Ⅲ~宿酔の代償~ 28話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 宿酔の代償 28 ~

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 首を振るわたしを見下ろす彼女の唇の端が、小さく上がる。

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 ちょっとだけ、意地悪を匂わせる笑みを浮かべた雀ちゃんが、右手でわたしの頬を撫でた。

「やけに目逸らすなと思ってたら、ドキドキして目が合わせられないとか。可愛い過ぎるでしょ」

 今は、目が合わせられないんじゃなくて、目が逸らせなくなってしまったのだけど。
 そんなわたしにはお構いなしに、雀ちゃんは手のひらを頬にあてて、そのまま下へずらし、顎のラインを越えたあたりに、指先を押し当てた。

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「あぁ、ほんとだ。脈、速い」

 嬉しそうに、目を細めている彼女が、わたしの頸動脈で脈拍をとっていたのだと理解したときには、もう、顔から火が出るのではないかと危惧するほどだった。

 妙な所を撫でるなと思っていたら、まさか、脈を測っていただなんて。
 どこでそんな技を覚えたのか。

「嘘じゃない所が、余計、可愛い」

 内緒話のように囁く声が、距離を詰めたと思ったら、再び塞がれる口。

 ――、だ、め……雀ちゃんの行動ぜんぶに……振り回され、てる……。

 落ち着かなきゃ、と思うのに、重なった唇の甘さに、思考が溶かされてしまう。
 こんな翻弄されたまま、もし、えっちに突入したら、きっとわたしは、自分を保てない。
 理性の欠片もなく、ただ、快楽を求めてしまうかもしれない。夢中に、なってしまうかもしれない。

 今まで、お付き合いをしてきた中でも、こんな経験は、ない。
 ドキドキして、相手の一挙手一投足に心が震えるだなんてことは、初めてだった。

 だからこそ生じた恐怖に、思わず、雀ちゃんの服を、掴んだ。

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 掴んだのは、服の裾。多分、彼女の脇腹に近い位置のそれだったと思う。
 きっと引っ張られる感覚があったのだろう、わたしの行動に気が付いた雀ちゃんが、啄んでいた唇を離して、ふっと息をついた。

「……どれだけ煽れば気が済むんですか」

 低い声が、わたしを甘く、詰る。

 煽る気なんて、欠片もなかった行動にそんな事を言われても困る。そう答えたかったのに、先程まで啄まれていた唇は痺れたみたいに動かなかった。

「あぁもう、限界」

 雀ちゃんは、堪え切れないように呟くと、わたしの首筋に、顔を埋めた。

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 熱い息が、首筋を撫でて通り過ぎた。
 

「んっ」

 それだけで大きく上がりそうになった嬌声をなんとか短く堪えて、唇を引き結んで息を詰めた。
 今夜は、なんだか、おかしい。
 何か、わたしの中で、スイッチが入っている。

 すぐにドキドキしてしまうし、声だってすぐに出てしまう。
 いつもならもうちょっとは堪えられるはずなのに。

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 熱気が通り過ぎたあとに、わたしの肌に触れたのは、それ以上に熱いものだった。その濡れた感触に、正体は舌だと気付き、はっとする。

「待、って」
「無理」
「だってシャワー」
「待てない」

 喋るために一度離れた舌は、すぐに戻ってきて、肌に触れる。

「待ってすず……ッ!」

 名前さえ、ちゃんと呼べなかった理由は、嬌声を堪える為だ。
 まるで、敢えてそうしたかのように、雀ちゃんはねっとりと首筋を舐め上げたのだ。

「なんで、声、我慢するの?」

 不満を含んだ声が、耳の傍で囁く。
 疑問文ではあるけれど、わたしにはまるで、命令文に聞こえるそれ。

 ジンと腰が痺れるくらいには、影響力がある。

「そういうコトされると、余計燃えるって、まだ、分かんない?」

 燃える燃えないじゃなくて、と言おうとした瞬間、肌を刺すような痛みが、首筋に走った。

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