※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 27 ~
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――近い。
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そう思った瞬間に、わたしの体は仰向けに傾いていた。
「っ」
声をあげる暇は与えられず、息を飲む隙しか与えられなかった。
”キスしたい”だなんて、わたしが更にドキドキするような台詞を投げつけてきた雀ちゃんの手によって、わたしはソファに押し倒された。
そこまで大きいソファではないけれど、わたしが倒れたらいい具合に右の肘置きに頭をぶつける事無く、仰向けになった。
ちょうど、頭のてっぺんが肘置きの内側に触れるかどうか、といった位置だ。
なんて、悠長に状況把握をしている場合ではない。
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ソファの弾力に少し跳ねた体が落ち着くと、わたしの頭の右上に、雀ちゃんの左手が着かれた。
ほとんどの体重をその腕で支えながら、雀ちゃんはわたしに覆いかぶさって、体を密着させてくる。
「愛羽さん……なんなんですか」
自分の体温は確実に上昇しているのに、それでも、彼女の体温の方が高いと感じさせるくらいに、雀ちゃんの体が熱い。
それとも、これは、錯覚なのだろうか。
鼓膜を震わせる彼女の声は、なんだか、責めるような色を含んでいて、不謹慎な考えを抱いていたわたしに怒っているのかと、恐る恐る、彼女を見上げた。
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恐々と見上げたその表情は、天井の照明で逆光になって見えにくい。
そのおかげで、さっきからドキドキしていた精悍な顔つきが隠れて、すこしほっとする。
だって、こんな至近距離で、あんな格好良い顔されたら、きっとわたしの心臓はドキドキしすぎて破裂してしまうから。
「なんなんですか」
もう一度、同じ言葉を繰り返される。
その声色は、さっきよりも少し、熱が篭っている。
「ごめんなさい」
貴女がわたしの体を心配してくれているのに、わたしは不謹慎な考えばかり浮かべていた。
雀ちゃんからしてみれば、”なんなんですか”だ。
「謝っても許されるような可愛いさじゃないですよ」
……え……?
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彼女の台詞に、え? と思った次の瞬間には、唇は奪われていた。
今度は声をあげる暇も、息をのむ隙も、与えてくれない早業に、思考がついていかない。
ただ、感じたのは、雀ちゃんの唇の柔らかい感触と、熱。
驚いて閉じることすら忘れていた目に映るのは、彼女の睫毛。
――思ったよりも、長いのよね、雀ちゃんの睫毛。
なんて、現状にそぐわない思考を巡らせていたら、雀ちゃんの唇が僅かに離れて、舌で舐められた。
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「っ」
ひく、と震えた唇をねっとりと舐めた雀ちゃんの舌が離れると、彼女は顔の距離をすこし取った。
逆光に目が慣れてしまったのか、彼女の表情が、見て取れる。
――もう、……だめ、かも……。
わたしは胸中で、思わず呟いた。
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きりりとした顔つきはそのままだった。
だけど更に、瞳が熱と鋭さを増して、こちらを見下ろしている。
ぶつかった視線を、逸らす事も許さない彼女の瞳に捕まって、わたしの心臓は、大きく、荒く、全身に血液を送り始めた。
全身に血液を巡らせる心臓のある胸が、痛いくらいに、切なさを覚える。何故なのか、理由すら分からないままに、きゅうぅと締め付ける息苦しさを感じる。
恋する女性が感じるトキメキというのは、こんなにも、痛いものだったかと疑問を抱く。
「可愛い過ぎて、たまんないんですけど」
溜め息と共に吐き出された台詞が、耳に届くけれど、いつもみたいに瞬時に理解が及ばない。
彼女が何を、言わんとしているのか、分からない。
だけど、唯一”可愛い”という言葉には、いつものように反発を覚えて、首を横に振った。
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