※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
===============
~ 宿酔の代償 24 ~
===============
本当、大人としてどうかと思う。
===============
わたしの大切な恋人である雀ちゃんは、聞くところによると、わたしのことを大事に想ってくれて、仕事で無茶するわたしの体調も気遣ってくれている。
そして、年下とか恋人の仕事に口出しするとか、色んな柵に苦しみながらも、雀ちゃんはこうして苦言を呈してくれている。
わたしの立場で言うと、まーに対してプライベートのアドバイスをするようなものかもしれない。
もの凄く、やり辛いと思う。
出来れば言いたくない。
そう思う類の事を、今、雀ちゃんは言ってくれているのだ。
===============
真面目な、顔で。
更に言えば、真摯な瞳で真っ直ぐにわたしを見つめて。
――ごめん。雀ちゃん……。
心の中で、謝り倒す。
だって、ドキドキして仕方ない……!!
===============
不謹慎過ぎると怒られても仕方ない。
分かってる。分かってるけど、そんな精悍な顔付きで、真摯に訴えかけられて、女として胸がときめかない訳がないじゃない。
しかも雀ちゃんが訴える内容は、わたしを案じる類のこと。想ってくれてるなぁと嫌でも実感してしまう。
完全に開き直りたいんじゃないから、真面目な顔してわたしを見つめる雀ちゃんの話はちゃんと聞くし、「仕事の量減らす」と了承の意は伝えた。
だけど、わたしの様子がおかしいのは普段鈍感な雀ちゃんも気が付いていて、不審だとばかりにわたしの手を掴んだまま放さない。
「ちゃんと、こっち見て」
叱るように言う雀ちゃんから、目を逸らし続けているのは、これ以上顔を見てドキドキする訳にはいかないからなんだけど……。
雀ちゃんからしたら、叱っても聞いていない、または、心に響いていない。
口では「仕事で無理しない」と言いつつ、いつものように流す気でいるように思えて仕方ないのだろう。
わたしが今まで、彼女の注意を受けてもさらっと躱してきたせいで、この点においての信用はゼロに近い。
そんな人間が目を逸らして「はい、ちゃんとします」と答える態度。
信用できないのは、明白だ。
===============
――違うの雀ちゃん。今回ばかりは本当に貴女の注意を聞いて生活を改めるつもりはあるの。目を逸らしてるのは……貴女が格好良いからなの……っ。
胸中では饒舌に語るも、表立っての行動としては、小さく首を振ることしかできない。
彼女に掴まれている手が、燃えるみたいに、熱い。
思い出すだけで、更に鼓動が速くなりそうだ。
プライベートではいつもにこにこと朗らかな表情で、彼女の仕事場であるバーでだって、口元には笑みが乗せてある。カクテルを作るその瞬間だって、きっと気を遣っているのだろう、ただただ真面目な顔付きにはならない。
そんな彼女が。
こちらをまっすぐに見つめて、瞳を薄らと潤ませて。真摯な光に炎を滾らせて、見つめてくる。
吸い込まれそうなその瞳に、見惚れそうになって、僅かに下へ視線をずらせば、飛び込んできた彼女の口元。
きりりと引き結んだ唇は、コーヒーを飲んだすぐ後だったせいか、しっとりと水気を湛えていて、色気が香った。
瞬間的にフラッシュバックしたのは、帰宅後すぐのキス。
舌こそ絡めていないけれど、熱の篭ったそれで味わった、彼女の柔らかな唇の感触。
脳裏に閃くように甦ってきたその感触で、もう、駄目だった。
格好良いこの人と、あんなキスをして、この唇の感触を自分は知っている。などと脳が勝手に考えるものだから、わたしは……耐えきれなくなって、完全に視線を逸らしたのだった。
――本当、大人としてどうかと思う。
===============
※本サイトの掲載内容の全てについて、事前の許諾なく無断で複製、複写、転載、転用、編集、改変、販売、送信、放送、配布、貸与、翻訳、変造などの二次利用を固く禁じます※
コメント