※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 22 ~
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言われて、思い返してみても、そうだと肯定するしかなかった。
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確かに、そうだった。
雀ちゃんと触れ合うのは大概、ベッドの中。
ただ眠るだけでもシングルベッドで二人で眠るのだからくっついて当然。
行為をする時は、まぁ触れ合うのが当然。
それ以外で彼女の体に触れるということは……正直、あまり記憶にない。
雀ちゃんのことを可愛いと思って、頭を撫でたり頬を撫でたりする事はあれど、それは大概、彼女が何かした事に対するリアクションでしかない。
つまり、わたしは自発的に、雀ちゃんに触れる行動は今までそんなにしてこなかったのだ。
だから、雀ちゃんの目から見れば、わたしはサバサバしている女で、おかしくない。
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その上、持ち帰った仕事ばっかりしていると……一緒に居る時間も少ない。
大岩が、頭の上に降ってきたみたいな、衝撃だった。
わたしの主観では、時間があれば触れていたり、一緒の空間に居たり、お喋りしていたりした。すなわち、イチャイチャしていた。
だけど、雀ちゃんからしたら、家に帰っても仕事仕事。一緒にいるのは食事かコーヒーか仕事してなくて読書タイムか、寝る時くらいなもの。合間合間で軽いボディタッチはあれど、ベッタベタに甘えるなんてしない女。それがわたし。
「はぅあああぁ……ごめん雀ちゃん……」
「え? え!? なんで謝るんですかっ?」
両手に顔を埋めて前屈みになったわたしの肩に、彼女の手が触れる。その声は随分と驚いていて、もうなんか、突然変な声をあげてびっくりさせてごめんねとも思う。
いろいろ、申し訳なさすぎる。
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「ほんと……仕事人間で申し訳なくて……」
「そんなの、愛羽さんは社会人なんですから当然ですよ」
あぁぁ……そんなふうに言ってくれる優しい彼女をないがしろにして、わたしは今まで仕事仕事仕事……。
「ごめんねぇ……」
「愛羽さん……」
顔を両手に埋めたままなのは、どの面さげて彼女を正面から見れるのか、という心境だからだ。
「あー…えっと……愛羽、さん?」
「うん?」
言いにくそうにしながら、雀ちゃんがわたしの名前を呼ぶ。
その声色の変化にわたしは怪訝さを覚えて、耳をそばだてた。
自在に耳が動かせるのなら、ゾウのように大きく一度はためかせて、彼女の声をよく拾えるように耳の向きを変えている。
「仕事してる愛羽さんは恰好良いですし、尊敬してます。会社ではバリバリ仕事してるキャリアウーマンなんだろうなって、想像するだけで、愛羽さんの事を更に好きになれるくらい、仕事してる愛羽さんが好きです」
な、なになに。急に。告白…?
思わず、どきりとしてしまったわたしに冷や水を掛けるように、真剣な声で、雀ちゃんが続けて話を始めた。
「それを前提で、聞いてください」
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「最近の愛羽さんは……ちょっと仕事の量が、多いんじゃないかと思います……」
両手に埋めていた顔を、浮かせる。
明るくなった視界の端に映るのは、雀ちゃんが体ごとこちらに向き直ったようで、ソファの上に曲げた片脚をあげている光景。
申し訳なさそうに、言い辛そうに続けて言う雀ちゃんの声に、誘われるみたいにゆっくり顔をあげて、首を巡らせ、彼女の表情を確認した。
「愛羽さんの体が心配です」
きゅっと眉を寄せて、どこか怪我でもして痛みを我慢しているような表情。彼女の瞳はわたしを真っ直ぐに貫いて、真摯に訴えてくる。
「朝は大体同じ時間だけど、たまに早く起きて出るときもありますし、夜は夜で、帰りが遅いときもあるし、早く帰ってきても深夜までお仕事してるときもあります。そんな生活しているのを見たら、やっぱり愛羽さんの体は相当辛いんじゃないかなって心配になるんです」
吸い込まれそうな瞳を、軽く潤ませた雀ちゃんが、わたしの手を握った。
「無理しないでください」
手を握ったことで、彼女の上体がこちらへ軽く傾いて、近付く。
当然、顔も近付く訳で……雀ちゃんの瞳に至近距離で強く、射貫かれた。
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