※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 17 ~
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な、なん……っ……!?
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いつの間に、この子はそんな揶揄い方を覚えたのか。
大人びたその戯れに驚くと同時にゾクリと快感を覚えてしまって、解放された唇から、出す言葉を失った。
開いた口が塞がらないというやつで、パクパクと意味もなく開閉を繰り返す。
「自分が言ったこと、もう忘れたんですか?」
至近距離で、雀ちゃんは愉しそうに笑う。
――だ、だからそんな余裕が滲み出るような笑い方、どこで覚えて……っ。
「いい人だと思うぶんだけキスしてって言ったのは、愛羽さんですよ?」
細められた瞳がずいと近付いてきたと思ったら、また、口を塞がれた。
くぐもった声で、雀ちゃん、と言っても、ただ唸るだけに聞こえる。
――だ、だめ。ちょっと落ち着いて。いきなりあんなドキッとするような顔されて、動揺しすぎてるわ。落ち着けわたし……!
心の中で自分を励まして、わたしはゆっくりと目を閉じた。
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――そ、そうよ。わたしが言ったんじゃない。
わたしがいい人だと思うぶんだけ、キスして?って。
今更ながらに思い出して、その台詞の恥ずかしさに赤面する。
キスをして欲しくて口実に彼女の主張を利用しただけであって、決して、わたし自身に絶大な自信を誇っている訳ではない。
「ん」
考えている間に、忍び寄っていた舌が、わたしの唇を撫でた。
左右にゆっくりと動く雀ちゃんの熱い舌に、思わず漏れた声。
キスして欲し過ぎて……なのか、今日は、何故だかよく声が漏れる。
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声は、抑えようにも、抑えられない時が多々あって、困る。
ゾワゾワと今にも鳥肌がたちそうな項を感じながら、丁寧に口角の端まで舐められて、半開きのそれから、更に声が漏れた。
もしかして、と、わたしは思う。
随分と危険な、誘い文句を彼女に投げつけてしまったのではないか。
その上、今の雀ちゃんはエッチなスイッチが入っている顔付き。
だからこのまま、ベッドに……なんて事も考えられなくもない。
――ま、待って、シャワーも浴びてないのに。
焦りが生じた瞬間、雀ちゃんに、下唇を噛まれた。
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「ンッ」
そこまで強く噛まれた訳ではない。だけど、まさか、噛まれるだなんて思ってもみない。
齧るように歯を立てられて、そのまま挟んで引っ張られた。
際限なく伸びるものでもないし、すぐに放されてぷるんと震えた唇に戻ってくるのは、熱い舌。
噛んだ場所を労わるように舐られて、不覚にも、下腹部が、ジンと痺れた。
甘い痺れが、そこから全身に伝わって、わたしは耐えきれず、彼女の後頭部に回した手で頭を更に引き寄せて、キスを深める。
こちらのそんな行動は予想外だったのか、雀ちゃんが、低く、短く、声を漏らした。
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――どう、しよう……その声でまで、痺れてくるんだけど……っ。
今聞いている恋人の声は、特別低い声でもない。
男性と付き合った経験もあるから、雀ちゃんの声よりも低くて腰に響くようないい声を聞いたこともある。
だけど、彼女に勝る過去の記憶は、ない。
縋るように引き寄せた後頭部の髪をくしゃりと握ると、わたしの口内に、久しぶりに入り込んでくる熱い肉。
まっすぐ、迷いも寄り道もなく、わたしの舌へと伸びてきたその舌は、先端に触れるとくにゅりと形を柔らかくして、絡みついた。
「は……ぁ」
だめ、抑えられない。
舌を迎えるためにある程度開いた唇から、甘声が漏れ出る。
これ以上したら、本当にベッドに行きたくなってしまう。シャワーもまだなのに、ダメよ。
そう頭では理解しているのに、胸が切ないくらいに締め付けられて、カラダが甘い痺れに震えて、更に、欲してしまう。
わたしの舌に触れる熱に、応じてしまう。
と、そこに、どこからともなく、電子音が、鳴り響いた。
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