※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 16 ~
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彼女の頬を撫でていた指が、スルと動いた。
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というのは多少認識が違うか。
わたしの親指が勝手に動くことはないから。
「……愛羽さん……」
普段より一段、低いトーンで呟かれたわたしの名前。
その声で呼ばれると、何故だか、項がざわざわする。
わたしの親指が勝手に動いたというよりは、雀ちゃんが顔を近付けてきてくれた、と言う方が、正しい。
ゆっくりとアップになっていく恋人の顔は、さっきまでドギマギしていたくせに、今はどこか大人びている。
――スイッチ、入った……。
それを狙っていたくせに、胸中にて、わたしはどこか他人事にそう呟いた。
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雀ちゃんの動きに合わせて、頬から耳、後頭部へ手を流して、唇が重なる頃には、彼女の頭を抱いていた。
「ん」
朝はあんなに冷たかった唇が、今はわたしと同体温か、それ以上に熱をもっている。
軽く首を傾けながら口付けをくれる雀ちゃんの腕は、やんわりとわたしを抱き締めていて、安心して身を任せられた。
「ふ、……ん……」
まだ深くはない口付けは、小さく啄んでは離れてを繰り返す。
さっきまでキスの主導権はわたしにあったのに、雀ちゃんのスイッチが入ってからは、その権利があちらに移ってしまったようだ。
動きを合わせるように彼女の唇を啄もうとしても、躱され、焦らされる。
もしかして。
気付かれたのかもしれない。
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――さっきから、わたしが執拗にキスを要求していたことに。
帰宅して早々、ムードも何もかも無視したようなキスをしたり、雀ちゃんの言葉を借りてキスを求めたり。
いざキスが始まれば、求めるように彼女の頭に手を回して抱いたり。
いかにキスしたいか。それがよくよく表れた行動ばかりしていたのだけど、鈍感な雀ちゃんには気付かれないだろうと高を括っていた部分が多少はあった。
だけど、気が付かれたのかもしれない。
そんな疑惑が胸を過ぎれば、鼓動が更にスピードアップしていく。
――ま、ずぃ……。
抱き合って、密着していると、鼓動は伝わりやすい。
自分から誘っておいてドキドキしている事すら、バレてしまいそうで、わたしは息継ぎのフリをして、キスを解き、顎を引いて俯きかけた。
すこし、1分。いや30秒でいいから。ちょっと心臓を落ち着ける時間をとりたい。
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だけど。
「まだ終わってないですよ」
わたしの背中を抱いていた雀ちゃんの腕が、軽く項を押して、俯くのを阻止する。
いや。項を押しただけでは動きを止める程度しかできないけど、その一瞬の隙を突いて、雀ちゃんが掬うようにしてわたしの唇を奪ったものだから、どうにもできない。
口付けられてそのまま流れで上向かされて。
終いにはご丁寧にも、後頭部を手で抱えられて。
身長差もあるせいで、まるで覆いかぶさるみたいなキスが降ってきた。
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「ん、ぅ……っ」
塞がれた唇では、くぐもった声しか出せない。
あまりの手技に抵抗する暇もなく口付けを再開されて、驚きに目を開いてしまう。
超至近距離では、長い睫毛を湛えた瞼が静かに下ろされているけれど、こちらの気配に気が付いたのか、ゆっくりと、それが開かれていく。
薄く開いた瞼の向こうから、見つめてくる瞳はどこか悪戯気。
まるで仕掛けていた悪戯が成功した時の子供みたいなその表情をする瞳に、怪訝さを感じずにはいられない。
キスの主導権を奪ったから?
や、でもそんな事でこんな目するかしら?
疑問が次々に浮かんでくるわたしは、随分と、隙だらけだったのだろう。
スルリと雀ちゃんの舌が、入り込んで、揶揄うようにわたしの舌を舐めて、出て行った。
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