※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 18 ~
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二人とも、熱中しすぎていたらしく、響いた電子音に、弾かれたようにビクッと体を震わせて、キスを解いた。
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驚きを顔中に広げて、互いを見つめ合う。
その数秒後。
「そういえば、パスタ茹でてたんでした……」
忘れてた……。
と呟く彼女の声が、なんとも情けない響きを耳に届けて、わたしはつい、吹き出してしまった。
クスクスと笑い続けながら、ハの字眉になった雀ちゃんの頭を撫でて、その頬にキスをする。
「ごめん、わたしも忘れちゃってた。ご飯、作ってくれてたんだもんね?」
「うぅ……」
ムードを壊した事を悔いているのか、雀ちゃんが唸るけれど、わたしとしては、よくやってくれたと褒めてあげたいくらいだ。
さすがに、シャワーも浴びてないのに、抱かれる訳にはいかない。
気持ち的には、十分、抱かれたい気分だったのだけど、女として、そこはちょっとダメな部分だった。
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ほぅ……と熱い溜め息を吐くわたしの額に軽く口付けるのは、名残惜しそうな雀ちゃんだ。
確かに、あそこまでスイッチが入ってしまっているなら、たぶん……燻るものは大きいと思う。
だけどそれを今、どうしてあげる事もできない。
パスタは茹で上がったみたいだし、わたしもシャワーを浴びてないし。
多分、お互いシたい気持ちはあれど、状況がそれを拒んでいる。
「……」
なんとも言えない気持ちを抱えたまま、わたしはぎゅっと雀ちゃんの体を抱き締めて、パッと体を離した。
「雀ちゃん。お腹空いた」
空気の読めない発言をしたわたしを、雀ちゃんはキョトンと見下ろす。
すぐに、わざとそうして、作り上げたムードを壊そうとしているのだと気付いてくれたようで、彼女は困ったように、諦めたように、笑った。
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「カルボナーラと、ミートパスタ、どっちがいいですか?」
「二種類あるの?」
まさか、味を尋ねられるとは予想していなくて聞き返すも、今時は便利で、レンジでチンして茹でたパスタにかけるソースがあるから、きっとそれの事かと思い当たった。
「もし今日のお昼愛羽さんがパスタ食べてたら、せめて違う味がいいかと思って」
さすがに二味は一食で食べないでしょう? と言いながらキッチンへ向かった雀ちゃんは、タイマーで火の消えた両手鍋をとりあげシンクにセットしていたザルにお湯ごとパスタを注いで湯切りした。
立ち昇る熱気と湯気に顔を顰めながら、二人分のパスタの水気を切って、そこにバターを少量落とす。菜箸で軽くかき混ぜれば、パスタの熱でじわりと溶けて、バターは馴染みながら姿を消した。
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「ちなみにお昼はなんでした?」
「オムライス」
「じゃあもしかして、カルボナーラがいいですか?」
用意してあったお皿にパスタを取り分ける雀ちゃんに言い当てられて、目を丸くする。
「ど」
「うして分かったかと言うと、オムライスはケチャップライスか上にケチャップがかけてある場合が多いので、昼も夜もそういう系は避けたいかなぁと思ったからです」
わたしの台詞すら予想していたのか、雀ちゃんに言葉を継がれて、そのまま種明かしまでされた。
「正解ですか?」
「大正解すぎて愛を感じるわ」
わたしのお昼ご飯に何を食べたかまで考えてくれているなんて。
ちょっと感動して、思わず、彼女の肩に手をかけて背伸びして、頬にキスを贈った。
ザルをシンクに取り落とした雀ちゃんが、赤い顔をしてこちらを向く。
「……あいはさん……するなら口にしてください」
「だぁめ。もっとキスしたくなっちゃうから」
まだ少し、先程の余韻が残っているのだろう。
平気で過激な台詞を口にする雀ちゃんに、にっこり笑い掛ける。と、視界の端に映る片手鍋とフライパン。
口をへの字にして不満そうにした彼女から視線をそちらに移すと、フライパンにはカルボナーラのソースと、お鍋にはミートソース。
「え、まさか手作り?」
フライパンとお鍋の中身は、どう見ても、手作り感満載。
だけど、カルボナーラソースと、ミートソースを両方一から作るとなると相当な手間だと思う。
二つを指差して尋ねたわたしを、雀ちゃんが怪訝そうな顔をして見つめてくる。
「ハイ。ぇ……晩御飯作ったって言いましたよね……?」
温め直す為に鍋とフライパンに火をつける雀ちゃんの手つきが、やけに手慣れていた。
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