隣恋Ⅲ~宿酔の代償~ 15話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 宿酔の代償 15 ~

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「今の私の気持ちを素直に言うと、ですね……」

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「うん」

 あ。早速。
 雀ちゃんが努力をして、自分の気持ちを伝えようとしてくれている。

「愛羽さんがいい人すぎて、怖いくらいです」

 予想外すぎる台詞に、わたしは彼女の手の温もりを感じたまま、目を丸くして固まってしまった。

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「……。わたしのどこがいい人なの」
「いい人以外の何者でもないじゃないですか!」

 なんとか会話に復帰したわたしの質問に、彼女は息巻く。

「そうやっていつもいつもわたしの気持ちを確かめようとしてくれるし、言い出せない事だって、察知してきっかけをくれたりするじゃないですかっ」

 これ以上優しくされたら罰があたります!

 ハの字眉の彼女がそう言って、わたしの体を両手でぎゅっと抱き締めた。
 子供みたいに必死なその両腕に抱かれて、頬を彼女の胸元へ押し付ける。

 温かなその胸は先程よりも心拍数を落ち着かせているけれど、彼女の体は熱い。
 興奮しているのかしら? と首を傾げつつ、わたしは力強いその腕の中で、小さく笑みを零した。

 だって、罰があたるだなんて。
 この天使さんに罰だなんて言葉、程遠い。

 罰があたるなら、わたしが先よ。
 そう思ったけれど、そんな台詞口にしようものなら、雀ちゃんはブンブン首を振って否定することだろう。

 そういう所が、いいんだけど、彼女は随分とわたしを身内びいきし過ぎているから。

 もっと冷静な目を持てば、わたしの程度が知れたものだと理解できるのに、騙されている。

 願わくば、彼女が、ずっと、ずっと、この先、騙されていてください。

 心の中で、わたしは卑怯な祈りを神に捧げた。

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「そんな事、ないと思うんだけどなぁ?」

 彼女を騙し続けるだなんて不吉というか、不謹慎というか。罪悪感を覚える。
 胸の内に生じた黒い感情は、今、雀ちゃんに見せるべきではない。

 とりあえず、黒い感情に蓋をするようにわたしはゆっくりと瞬きをした。

「そんなことあります」
「じゃあ。さ?」

 抱き締められて、胸に押し当てられていた頬を離して、罰があたると喚く彼女の顔を目に映す。
 わたしの体を力強く抱き締めていた腕が緩んだので、すこし体も、離してみる。

 見つめていた雀ちゃんの瞳に、じわ、と僅かに寂しさが滲んで、可愛い。すこし体を離しただけなのに。
 朝からさっきまで、会社と自宅というとてつもない距離離れていたのに、この10センチにも満たない距離離すのが、寂しいだなんて。

「わたしがいい人だと思うぶんだけ、キスして?」

 彼女の頬に手のひらをあてて、親指でさらりと撫でる。
 両の口角をゆっくりと上げてみせると、撫でられたからなのか、要求されたからなのか、嫣然とした笑みを目の当たりにしたからなのか。わたしの愛しい人は、耳まで真っ赤になりながら、ゴク、と喉を鳴らした。

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 きっと、彼女が男性のように喉仏が出ていれば、それはそれは大きく、上下に動いたことだろう。
 生唾をのむ音が、そのくらい大きく、わたしの耳に届いた。

 いつまで経っても、こうやって初心な姿を見せてくれる彼女が可愛くて、わざと、色仕掛けをしてしまうんだけど……いつまでこういう姿をみせてくれるのかしら……?

 1年? 2年? 3年?
 こういう事の回数を重ねていくごとに、「あぁまたコレか。慣れた慣れた」という気持ちが増して、いつかは、「またやってんのか……」なんて呆れられて飽きられる時が来てしまうのだろうか?

 ――……それってすっごい嫌だわ……。

 過ぎった不安で、眉間に皺を寄せてしまいたくなる程、わたしには嫌な想像だった。今は、雀ちゃんが居る手前、そんな表情しやしないけど、一人のときなら確実にそうしていたと思う。

 けれど、彼女に良い変化を求めるように、それ以外の慣れや惰性化してしまう変化だって、わたし達の間に表れてくるだろう。
 それこそ、もう、気付いていないだけで、そんな変化もあっているのかもしれない。

 ――ちゃんと、そういうトコロも、気が付いていかなきゃ。

 この子との、付き合いをずっと続けていくためにも。

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