※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 7 ~
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「あぁ飲みと言えば」
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わたしの誘いに、何かを思い出したように、まーは顔を上げた。
「すずちゃん、二日酔いなんだって?」
「あ、うん。昨日散々飲んだらしくて」
ひどい顔色してたわ、今朝。と肩を竦めてみせると、正面の彼女は、まるで漫画の台詞のように、「はっはーん」と言って、したり顔をみせた。
「だから心配して昼間っから電話してた訳ね」
「二日酔いとはいえ、一応心配でしょ?」
「たかだか二日酔いで」
甘やかしすぎでしょー。とその声色が言っているけれど、恋人の心配くらい、いくらしても罰は当たらない。
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「酔に行ったんだってさっき聞いたんだけど、久しぶりに蓉子さんに会いに行こうかな。愛羽も行くでしょ?」
「うん」
懐かしむような響きの台詞に、まーが暫く、「酔」に顔を出していないのだと知る。
元々わたしは、まーに「酔」を紹介してもらって通うようになった経緯があるのだが、ついこの間知った事実が「酔」に親近感を増やさせた。
そういえば、まだその事をまーに伝えていない。
「蓉子さんってね、シャムの店長さんのお師匠様なんだって」
「は?」
素っ頓狂な声をだしたまーが、「シャムって……すずちゃんとこの?」と首を傾げる。
「そう。だから雀ちゃんは孫弟子みたいな感じで、この間指導されてるとこ見ちゃった」
「ええええ……世間せまっ」
目を丸くするまーに、相槌を打つ。
ホント、世間は狭いって言葉そのものだ。
以前から通わせてもらっていたバーの店長の孫弟子と、わたしが恋人関係になるだなんて。
「そりゃあますます、酔に行きたくなったわ。今日にでも、と言いたいとこだけど、愛羽は早く帰りたいもんねぇ?」
二日酔いの恋人の看病で。と言外に含むようなやらしい声を出すまーは揶揄う気満々だけど、その手には乗るもんですか。
「可愛い子が待ってるからね」
逆に自慢気たっぷりに言い放ってやると、まーは鼻に皺を寄せて悔しがった。
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食事を終えてデスクに戻ってくると、何故かまーがわたしの後ろを付いてくる。彼女のデスクは向こうなのに。
てっきりそれぞれのデスクにつくものと思っていたのに、後ろを付いてくるもんだから二度見するように振り向いて、不審者を見る目付きになってしまう。
「なに……?」
「あんたじゃなくて伊東に用があるの」
「ああ伊東君か」
伊東君はわたしの隣のデスクだから、まーが後ろを付いてくるのも納得。
そんな会話をわたし達が彼のデスク付近でするもんだから、ちょっと耳に届いたみたいで、すでに席についていた伊東君が「んん?」とこちらを振り向いた。
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振り向いた彼の口には、にょきっっと茶色の四角い物体が咥えられており、どうやら栄養補助食品だと察する。
「え。ご飯食べてないの?」
この時間に栄養補助食品でチャージしているということは、忙しくて昼食を抜いたのかもしれない。
言ってくれたら手伝ったのに、と隣席ながら彼の忙しさに気付いてあげられなかった自分に罪悪感を抱いていると、伊東君はそれを飲み込んで首を振った。
「飯食ったけど小腹が減って」
「それをおやつに食べると太るって聞くよ、伊東」
まるで育ちざかりの高校生男子みたいな事を言う伊東君に呆れつつも、冷静に突っ込むまー。
確かに栄養補助食品って意図的にカロリーを高く設定して作ってあるから、それを食事の代わりにするのはOKだけど、食事にプラスして食べると、余計なカロリーを摂る結果になって、太るらしい。
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「俺カラダ鍛えてるんで平気ですよ。それより、俺に用事ですか?」
さらりと言う彼の体格は確かに、他の男性社員より一回り大きい。元々運動系の部活だったらしくて、それから習慣的に体を鍛えているのだろう。
いいなぁ……あれだけ筋肉あったら、食べたいもの食べても基礎代謝が高いから太らないんだろうなぁ……。
「用事っていう程でもなく」
わざわざ足を運んだにも関わらず、まーはそう言って椅子に座ったままの彼の肩にぽんと手を置いた。
それから、目を丸くしている伊東君に何も言わずに、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、と4回軽くその肩を叩いた。
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