※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 4 ~
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『もしかして、心配してかけてきてくれたんですか?』
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「当たり前でしょう? あんな顔色悪い姿みたら心配するわよ」
よもや自分が心配されるとは予想だにしていなかったような声色。
まったくもう……この子は本当に自分の事に関して疎い。
『……ありがとうございます、愛羽さん』
心底感動したように言うものだから、わたしは思わずハの字眉になりながら笑った。
窓に映った自分の顔には、そりゃあもうデカデカと”電話の相手が好き”と書かれているように見える。
そんなものすごくデレデレした自分が恥ずかしくもあり、改めてこんなにも好きなのかと再確認して嬉しくなってしまう。
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しかしながら、ここは一応会社の中。
咳払いを一つしてなんとか気持ちを切り替えて、真面目な顔を作る。
「それで、体調は大丈夫? 声を聞く限り、朝よりは良さそうだけど」
『お察しの通り、朝よりずいぶん良くなりましたよ。スポドリ2本飲んじゃいました』
「じゃあたくさん買っておいて正解だったわね」
『はい。良くなってきたのは愛羽さんのスポドリのおかげです』
にへ、と笑う雀ちゃんが容易に想像できて、引き締めたはずの顔がいつの間にか緩んでしまう。
だって、ただ買いに行ってあげただけのスポーツドリンクを指して、愛羽さんのスポドリとか言うのが可愛いんだもの。にやけて仕方ない。
しかもその可愛い子は、わたしの恋人。
にやけて仕方ない。ええもうそりゃにやけもするわよ。可愛いなぁ。
なんて、恋人との電話にデレデレだったわたしは、背後から近づいてくる人の気配に全く気付くことができなかった。
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完全に、気を抜いていた。
だから素で、叫んでしまった。
「ひにゃッ!?」
「ぶっは!」
名誉のため言っておくが、前者がわたし、後者が背後から忍び寄ってきた人物の笑い声だ。
『えっちょ、愛羽さん? 大丈夫ですか?』
電話の向こうから、雀ちゃんの焦った声が聞こえる。
多分突然大声で叫んで、彼女の鼓膜を突き刺してしまっただろうに、わたしの事を心配してくれるだなんて、可愛いうえに優しい恋人だ。
そんな恋人との電話を邪魔したのは、背後からのくすぐり攻撃。わたしの両横腹を両手でガッと掴んだ人物。
そんなくだらない事をするのは、この会社でただ一人。
「なにするのよ、まー!」
『え、まーさん?』
擽られた時点で反射的に身を捩って、その手から逃れていたわたしは、改めて彼女へ向き直り、睨みつけた。
しかしわたしの眼光をものともせず、おかしそうに笑っている彼女は「だってあんまりにも愛羽の顔がデレデレだったから」と悪びれもせず言った。
「絶対その電話の相手はすずちゃんでしょ」
当たっているから悔しい。
ていうか、わたしって他人から見てもそんな顔してたってこと?
しかも直接じゃなく、窓に映った顔でもそれだけ判断できるって相当ニヤニヤでれでれしてたってこと?
思わず閉口していると、わたしの手からスルリと電話を抜き取ったまーが、こちらを指差した。
「図星」
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