隣恋Ⅲ~宿酔の代償~ 2話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 宿酔の代償 2 ~

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 自動販売機から戻ってきたわたしの手には、5本のペットボトル。

 最初雀ちゃんが言っていた6本と、今わたしが所持している5本もあまり変わらないんだけど、さすがに6本は持ちきれない。
 5本でも結構頑張ってもっている。

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 本当は2本くらいで大丈夫かと思ったけれど、雀ちゃん本人にも言ったように、二日酔いの体でエレベータはきついだろうと、多めに買ってきた。
 まぁ、余って腐るものでもないし、足りないよりは余るほうがいいかという判断だ。

 朝っぱらからスポーツドリンク5本抱えているスーツの女なんて不審人物だろうけれど、幸い誰ともすれ違うことなく、雀ちゃんの部屋の前まで来た。

 両手が塞がっていてどうやってインターホンを押そうかと悩みかけた瞬間、扉が開いて、ぬっと中から彼女が顔を出した。
 相変わらず、顔が青白い。

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 どうやら、足音で戻ってきたことを察知して、扉を開けてくれたみたいだ。

「玄関で待っててくれたの?」
「そりゃあ……」

 買いに行かせてしまったんだし当然ですと、反省の色濃く、もごもご言う彼女は相変わらずお酒クサイ。けど、それでも可愛いなぁなんて思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。

 とりあえず玄関に入れてもらって、彼女にペットボトルとおつりを渡す。

「すみません。助かりました」
「気にしないで? 今日は大人しくちゃんと寝てるのよ。何かあったら遠慮しないでわたしに電話すること。いい?」
「……はい」

 あ、今躊躇った。
 絶対遠慮するわね、この子。

 鞄を肩にかけながら、わたしはちょいちょいと、人差し指を曲げて彼女を呼んだ。

 玄関で一段高い所に居るから、彼女が猫背でも身長差がありすぎる。

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 きょとんとした顔で、こちらに身を屈めてくれた彼女の唇。
 二日酔いでいつもより色調の悪いそれに、控えめながら鮮やかなルージュを刷いた唇を重ねた。

 ――いつもより、冷たい。

 彼女の体調の悪さを物語っている体温を感じて、閉じた瞼が震えた。
 まったく……ただの二日酔いなのに、雀ちゃんが具合悪そうにしていると、こんなにも心配で、切なくなる。

「いってきます」

 色の移った彼女の唇を確認して、わたしは預けていた鞄片手に、玄関を出た。

 口紅の色移りで彼女の体調が治る訳でもないのに、そんな子供騙しをするなんて、見境なくお酒を飲んで二日酔いになる彼女より、子供じみている。

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 本日二度目のエレベータに乗り込み、1階のボタンを押す。
 特有の浮遊感を味わいながら地上へ向かっていると、鞄の中で携帯電話が震えた。

 基本的にいつも消音バイブ設定にしているわたしは、誰からの着信だろうと首を傾げつつ、鞄に手を差し込む。
 取り出した端末の画面には、先程唇を重ねた人の名前。

『いってらっしゃい。気を付けて』

 自然と口元が緩む。

 たぶん、玄関でわたしの「いってきます」に「いってらっしゃい」と返せなかったのを悔やんでいたのだろう。
 その原因は確実に、わたしからのキスだろうけど。

 元々青白かった顔が、赤くなったり、青くなったり。容易に想像できるその光景に、胸がじんわりと温かくなる。

『大好きよ。雀ちゃん』

 とだけメッセージを送信して、わたしは携帯電話を鞄に仕舞った。

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