※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 46 ~
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「あ、そこの信号右に曲がってー」
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曲がりで揺れる体をそっと守るシートベルトの感触が弱い。
たまに男性社員の運転してくれる会社の車に乗ることはあるんだけど、その時よりも丁寧な走り方で、雀ちゃんの運転する車の助手席は安心する。
だからこそ眠くなっちゃうっていうデメリットもあるんだけど、それは甘んじて受け入れ、眠らないように努力する必要がある。
「もうちょっと行ったとこ。そう、そうそのマンション」
「入り口は……ここですね」
ちゃんと、マンションの出入り口付近で停車してあげる彼女の優しさに微笑んで、軽く体を起こす。
「すずちゃん、ちょっとついてきて。渡したいものあるから」
「え? あ、はい」
突然の要求。まーは一体何を渡すのだろう。もしかして、ゲームとかかな。
首を傾げつつ、窓をあけていると、車から降りたまーがわたしの顔を覗き込んだ。
「お疲れ様。今日はありがとね。愛羽のおかげでうまくいったわ」
バタン、と扉がしまる音と共に車が軽く揺れる。雀ちゃんが運転席から、降りたのだ。
「あなたのチームの一員として頑張っただけだもの。リーダーの頑張りには負けるわよ。……まーもお疲れ様。せめて明日は早朝出勤しないでゆっくり休んでね。倒れちゃうわよ?」
「んー、まぁ、気が向いたら、ゆっくりする。おやすみ」
おやすみ、と軽く手を振ったわたしの手を、窓の外からにゅっと侵入してきた雀ちゃんの手が握った。
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なになになに、と突然の積極的な行動に驚いていると、何かを握らされた。
「これ持っててください。私が持ったまま離れると、アラーム鳴っちゃうから」
あと、変な人が来たら怖いから、鍵閉めて待っててくださいね。と念を押して雀ちゃんがまーと車から離れた。
心配屋、と腕を小突かれている後ろ姿がマンションの中へと消えたのを確認すると、わたしは運転席のドアをロックした。
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5分も経たないうちに雀ちゃんが戻ってきて、必死に睡魔と戦っていたわたしは手を伸ばして、運転席のドアのロックを外した。
嬉しそうに車に乗り込んだ彼女は手に何かを持っている。
「お待たせしました。これ、まーさんからの預かり物です。アンケートって言ったら分かるからって言われたんですけど、わかります?」
あの宿泊無料券が入った封筒と同じ、淡いピンク色をした大きめの封筒を差し出されて、カクカクと頷いた。
受け取って、代わりに預かっていた四角い物体を彼女に返すと、妙に至近距離で、ありがとうございます、と聞こえた。
次の瞬間、柔らかくて温かい唇がわたしの呼吸を一瞬だけ奪って、吐息を残して離れていった。
キスをされたのだ、と気付いた時にはもう、彼女の顔は離れた後だった。
「ごめんなさい。家まで我慢できませんでした」
不意打ちに、今更ながら真っ赤になって俯く。
「い、嫌じゃないけど……急すぎ」
「ごめんなさい」
笑みを含んだ柔らかな声が、車の出発を告げた。
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彼女からの口付けにドキドキと高鳴っていた胸も、程なくして落ち着いてくると、代わりにやってくるのは睡魔。
もう、白目になるんじゃないかと思うくらい眠いけれど、助手席で眠るなんて非常識なことはできない。
きっと、眠ったとしても雀ちゃんは怒らないと思うし、マンションに到着したら優しく起こしてくれるだろう。
でも、だからこそ、寝たくなかった。
彼女だって、学校行ってバイト終わりに迎えに来てくれているのだ。疲れているのにわざわざ迎えに来てくれた彼女の横で眠るだなんて、人として、したくなかった。
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