※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 45 ~
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運転席へ乗り込んだ雀ちゃんは、軽く後ろを振り返った。
「まーさん、住所教えてください」
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まーの家がどこにあるのか知らない雀ちゃんは、ナビを使って彼女の家まで送っていくのだろう。
車のナビを操作する雀ちゃんとわたしの間から身を乗り出したまーが、ナビ画面へと手を伸ばした。
「いやぁでも本当、蓉子さんとすずちゃんに感謝よ。これから電車で帰るのは正直辛かったから」
「昨日の残業からずっとお仕事で、お疲れですもんね。しかも、お酒まで」
「そうそう、そーなのよ。今回はちょっとハプニングと接待が重なったからねぇ。すずちゃんにも多大なるご迷惑をおかけして、ほんと、申し訳なかった」
シートベルトを締めた雀ちゃんが、軽く目を見張ってから横に首を振った。
「いえ私は何も。あ、そうだ。まーさん昨日はコーヒーご馳走様でした」
「ん? あぁワックね、いやいやとんでもない。こちらこそ、買い出しもさせてごめんね」
住所を入力し終えたまーが、後部座席に体を沈めながら「よろしく」と言い、わたしと雀ちゃんの間を遮るものが無くなった。
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視界に戻ってきた雀ちゃんの横顔は、まーの家が大体どの辺りにあるのか把握しようとナビ画面を見つめている。
あーやばい。かっこいいしかわいい。なんてぼんやり考えていると、確認を終えたのか雀ちゃんがチラとわたしに視線を投げた。
「寝ててもいいですよ。愛羽さんの家は知ってますから」
ちょっとお道化て言う彼女に、「んーん、起きてる」と首をふる。
すると後ろから、会話を聞いていたのだろう、まーが元気のない声でいつもの台詞を言った。
「りあじゅうばくはつしろ」
「まーさんは起きててくださいね。家のへん詳しくないんで」
「まったく。だらしないなぁ。着いたら起こしますから、くらい言えないのかねキミは」
気心が知れているからそういう事が言えるんだろうけれど、あまりの言いぐさ。
雀ちゃんは好意で迎えに来てくれたのだ。本来ならば電車に揺られるかタクシーを呼ぶかしなければいけないのに。
わたしがまー窘めるより早く、雀ちゃんが体を捻って後部座席に笑顔を送った。
「今すぐ降りますか?」
「いやぁぁごめんなさいちゃんと起きてるのでお願いしますぅぅ!」
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「そういえば、まーさん」
ゆるやかに車を走らせながら、雀ちゃんが後部座席へと声をかける。
きっと、今にも眠りそうな疲れた顔だったまーを見ているから、眠らせないためなんだろう。
「んー?」
「今日の夕方言ってた金曜から日曜の予定空けといてっていうの、何だったんです?」
どっか行くんですか?
呑気にそう尋ねる雀ちゃんの言葉で、思い出す。
そうだ。ラブホテル。
疲れ過ぎて忘れていたけれど、あの無料券を貰ったことを彼女に説明しておかなきゃいけないんだった。
「あー、あれはねー。愛羽から後で説明があると思うからー」
「え? そうなんですか?」
「う、うん……」
い、今説明した方が、流れ的にいいだろうし、まーが傍に居る時の方が……ラブホテルとか、その、色んな事の説明がしやすい。
そう考えてわたしは、雀ちゃんの方を向いた。
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「愛羽ー、あたしが居ない所で説明してねー?」
釘を刺された。
どうしてよっ、と噛みつかんばかりに後部座席を振り向くと、そこにはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた彼女。
「駄目よ。そういう事は二人きりの時に言わなきゃ。面白くないじゃない」
「べ、べつに面白さ求めてる訳じゃないし」
「それ、誰に貰ったのかなー?」
「う……」
そこを突かれると、もう言い返せない。
多分まーは、わたしが恥ずかしがりながら雀ちゃんに説明する、というシーンを実現化させたいのだろう。
いじわるだ。
ほんとーに、いじわる。
蓉子さんもいじわるだけど、まーもなかなかにいじわるだ。
引きさがるしかなくて、唇を尖らせて前を向くと、隣で小さく笑う気配がした。
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