※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 44 ~
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やはり、女性が集まると、そういう話は盛り上がるものである。
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根掘り葉掘り、とまではいかないが、なかなかに色んな質問をされた。
極力ぼかしながらも答えられるところは答えて、なんとか、蓉子さんの気が済むところまでこぎつけた。
「ま、このくらいで勘弁してあげるわ」
フフン、と鼻で笑う彼女の前でわたしは顔から火が出そうで頭からは湯気が出そうになっていた。
「いい感じになってるなら、いいんじゃない?」
くそぅ、こんな割高の相談料を取られるくらいなら、相談なんて今後しないんだからっ、と意気込んでいる最中に、蓉子さんが優しい声で言うものだから、恥ずかしくて伏せがちだった顔をちょっとあげた。
「うちの可愛いコと、孫弟子が幸せそうなら私も嬉しいのよ」
慈しむような眼差しを受けて、軽く目を見開く。
蓉子さんがお客さんから好かれる理由は、整った容姿やフェロモンだけが理由ではない。
容姿なんて化粧があれば大概どうにかなるものだけれど、内から溢れるその人の性質や心の魅力は、誤魔化せるものではない。
それを今、まざまざと、見せつけられ、心に深く刻んだ。
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真心と優しさと親心と慈しみを混ぜたような表情をする蓉子さんに、見惚れている場合じゃない。お礼を言わなきゃ。
口を開きかけたとき、背後で「酔」の扉が開く音がした。
どうやらお客さんらしい。
タイミングを逸したことを悔やみつつ、手元のグラスに僅かに残っていたカクテルを飲み干す。
そろそろ、帰らないと。まーもわたしも、明日も仕事だ。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃい。早かったわね」
「こんばんは。そりゃあもう急いで来ましたから」
由香里さん、蓉子さん。その後に続いた声に、喋り方に、聞き覚えがありすぎて、グラスをコースターに置く暇も惜しんで、わたしは振り向いた。
「迎えに来ましたよ。愛羽さん」
にこり、とわたしに笑い掛けてくれた恋人は、隣の席の人物へも視線を移した。
「と、まーさん」
「あたしはついでか」
ツッコむ彼女は、残っていたグラスを煽って空にした。
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な、なんで居るの。
なんで来てくれてるの。
なんでこんな早く会えたの。
わたしの中では、今から駅まで行って、電車に揺られて、徒歩でマンションまで帰って、お風呂に入って、それから雀ちゃんに会う予定だった。
彼女の顔を見るまで何行程も経なければならなかったのに、それを全部すっ飛ばして、会えてしまった。
あまりの驚きように固まっていると、雀ちゃんは軽く苦笑しながらこちらへ近付いてくる。
「蓉子さんが連絡してくれたんです」
「いつの間に」
まーが鞄をごそごそやり始めると、由香里さんがお会計の集計を始めた。
「あなた達が見送りに行ってる間。雀が暇ならちょうどいいくらいの時間かと思って呼んだのだけど、いい頃合いだったわね」
「ありがとうございます」
雀ちゃんがわたしのすぐ後ろまで来て、蓉子さんと視線を合わせてお礼を告げる。
そのあと、二人は「バイトは?」「今日は10時あがりだったので」「ふぅん、じゃ、丁度よかったわけね」と会話を繰り広げ、まーは由香里さんにお会計を済ませた。
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まーが自分の荷物をとりあげ、肩にかけるのを見て慌てて立ち上がる。が、すでに雀ちゃんがわたしの鞄を手にしていて、いつの間にエスコートされたのかも、見逃していた。
「蓉子さん。今日は本当にお世話になりました。次来るときはちゃんと事前に予約取れるように気をつけます」
「いいのよ。接待なんて臨機応変が一番だもの。今夜はゆっくり休みなさい」
「ありがとうございました」
丁寧にお辞儀をして、店を後にする。扉をでると、先程赤城さんのお母様が車を停めていた場所に、昨日乗った車が停めてあった。
「あれ、すずちゃんの?」
「いや借り物ですよ」
「あたしうーしろ! 広々~」
鍵を開けた車の後部座席へ迷いなく飛び込んでゆくまーに苦笑した雀ちゃんが、助手席の扉を開けた。
「どうぞ」
「あ、りがと…」
助手席へ乗り込むと、雀ちゃんから差し出された鞄を膝の上へと乗せる。
閉めますね、という言葉と共に、ドアが静かに閉められた。
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