隣恋Ⅲ~戦場へ~ 40話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 戦場へ 40 ~

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 二人とも凄い。

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 あの料亭で、食事をしたあとなのに、ぺろりとピザ1枚を平らげた二人。
 まぁ、赤城さんは男性だから食べる量が多いのは分からなくもない。

 けどまーは女性なのに……相変わらず、スゴイ食欲。

 昨日の晩、ワクドナルドを寄越せと騒いでいた姿を思い出して、ひとり、唇の端で笑った。

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「で、だから、俺ぁこいつに振られたんですよ」
「へぇ、そうなの。ひどい話ね」
「でぇしょお?」

 興味なさげに相槌をうちながら、グラスを磨く蓉子さん。
 由香里さんはつい先程お帰りになられたお客さんのテーブルを片付けに行っていてカウンター内に姿がない。

「可哀想に思ってしまうわ」
「でしょおぉ?」

 蓉子さんに絡んでいるのは、言わずもがな、赤城さんだ。
 ピザを食べた後に蓉子さんに作ってもらった「おまかせカクテル」を飲んだときからガンガン酔いが回っている様子で、しゃんと伸ばしていた背筋も曲がり、一人称も俺に戻ってしまっている。

 そしてずーっと、まーとの付き合いがどういう経緯で終了したのかを懇々と、語っているのだ。

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 当の本人が隣に居るというのに、「当時の俺の代表的女」と言ったり、「ちょっと他所に目が行ったから怒った」と言ったり、まぁ酷いものだ。

 彼の隣でまーはうんざりした顔で、さっきから随分とビールをお代わりしている。
 席順が、左からわたし、赤城さん、まーと座っているため、わたしとまーがコソコソお喋りすることもできない。

 ただ、グダグダと繰り広げられる彼視点の昔話に耳を傾けて、「ひどい男だな」と感想を深めることしか、やる事がない。

 接待をスタートした瞬間は、ほどほどにあった好感度だが、今は地の底へと落ちて、もう地球の裏側に到達してしまいそうなくらいに、わたしは彼の事が嫌いになっていた。

 まぁ社会人をやっていれば、嫌いな相手との付き合いは容認していかなければならない。
 好きでも嫌いでも、仕事なのだから、我慢するしかないのだ。

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 赤城さんは酔い過ぎて、目の前の蓉子さんにしか目をやっていないが、一応、彼の目を盗んで腕時計で時間を確認する。
 もう、22時半を過ぎたところ。

 ぐったりする。もうかれこれ、1時間くらいは、彼の昔話に耳を傾けているのだ。

 大概、蓉子さんにも迷惑をかけているので、そろそろお開きにしなければ。

 キシ、と椅子を軽く鳴らして少し背を反らす。
 赤城さんの向こうに居るまーが、わたしの動きに反応して、それとなく、視線をこちらへくれる。

 腕時計を示して見せると、まーは自分のそれで時間を確認すると、軽く何度か頷いた。

 そして、残っていたビールをぐっと飲み干すと、赤城さんの背中をトントンと軽くたたく。

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「ほら、優一。そろそろ帰るよ。明日も仕事でしょ?」
「えぇ……いやだもっと蓉子さんと喋りたい」
「嫌だじゃないの。タクシーで帰るのよね?」
「あー違う。迎えが来る」

 え? とまーとわたしが顔を見合わせる。
 うちの副社長なら秘書が迎えにくる、なんてことは予想できるけれど、専務あたりでも迎えというのは来るものなのか。
 まぁ、会社の規模でそういうのは違ってくるだろうし、とわたし達は黙り、彼がのろのろと携帯電話を取り出すのを見守った。

 失礼ながら、酔っ払いさんの携帯電話を隣から見下ろして、掛ける相手を確認する。

 以前、接待でべろべろに酔っ払った相手が、自分の会社の社長さんに電話を掛けて大変な事態になった経験を持つわたしは、一応、相手が酔っ払った場合は可能な限り、誰に電話をするのか見守る癖がついた。

 あんな事件は二度とご免こうむりたい。

 だってあのとき、「あ! もしもし社長! 俺の事好きみたいなので金本愛羽さんにプロポーズします!」とべろべろに酔った取引先の人が喋り出した時は、本当に冷や汗が噴き出したもの。

 誰もあなたの事は好きじゃないし、愛想よくしてたのは接待だからだし、電話を一方的に切ったその後彼から告げられたのは「付き合ってください」というプロポーズよりもだいぶ前段階の言葉だったしもう何から処理していいのか、本当に困ったのだ。

 今となっては笑い話にできるけれど、もうあんな事件は起こしたくない。

 と、昔を懐かしんでいると、わたしの横でのろのろと緩慢な動きで、発信履歴の所から電話番号を引っ張り出して、赤城さんが電話を掛けた相手は”母”との表記がしてあった。

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