※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 37 ~
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「赤城さん、だったかしら? お店に来られたとき、何て仰ったのかしらね?」
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彼がわたしとまーの間の席につくと同時に、蓉子さんは尋ねた。
何故そんなことをきくのかと不思議に思う。
きっと彼女の質問の正解は「おぉ……美人……」なのだろうけれど、本当に聞き取れず聞き返したのか。それとも、聞き取れたからこそ聞き返したのか。
どちらなのか判断に困り、わたしはそのまま二人の会話を見守った。
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どういう意図なのか。
初対面の蓉子さんの考えていることを当てろだなんて到底無理な事だが、赤城さんは果敢にもじっと彼女の瞳を見上げ、心を読み取ろうとしていた。
「……」
が、優雅に微笑まれると、彼は降参したのか、少しだけ破顔した。
「虹が綺麗ですね、と」
は? と、声こそ出さなかったものの、彼の向こうに見えるまーの顔が歪んだ。
店のどこに虹があるのよ、と彼女の心の声が聞こえてきそうだが、これはアレだ。
隠し言葉的な。アレ。
月が綺麗ですね、が、愛していますの意味だというやつで、確か、虹が綺麗ですねは、あなたと繋がりたい、だったと思う。
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初対面の人に、なんてことを言うのか。
何かフォローを入れようかと口を開きかけたとき、蓉子さんは楽しそうに笑った。
あの笑い方はきっと、隠し言葉の意味を知っているのだ。
「虹は手の届かないものよ?」
あぁほら。自分とアナタは繋がらぬ存在なのだと暗に伝えようとしている。
声も顔も笑っているけれど、目が笑っていない。こわい。
「いいえ?」
赤城さんとて、酔っているがそのくらい見抜ける目は持っているはず。なのに彼は何を思ったのか。
バーカウンターの向こう、蓉子さんへと手を差し出した。
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どうして入店して5分も経っていないのに、こんなにもハラハラしていなければならないのか。
怖いもの知らずというか、怖いもの見たさというか。蓉子さんの本性を暴こうとしているのか、彼は蓉子さんに手を差し伸べたまま、微動だにしない。
しかも、だ。
蓉子さんも目は笑ってないくせに、どこか面白がるような顔をして、その”シャルウィーダンス”的な手に、自分の手を乗せた。
「こんなにも、私は貴女の傍に居ますから。虹は綺麗だと思いませんか?」
乗せられた手を軽く握り、にっこりと笑う彼。
――強い……鋼の精神でも持っているんだろうか、赤城さん。
蓉子さんが手を触らせたことにも驚きだったけれど、傍で静観していた由香里さんの目に一瞬で怒りが燃え上がったことに、驚愕した。
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