隣恋Ⅲ~戦場へ~ 33話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 戦場へ 33 ~

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 仲居さんから聞いていた通り、10分足らずで到着したタクシー。

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 すでに運転手さんにはタクシーチケットを渡してあるので、あとは赤城さんが乗り込むだけ。

「今日はありがとう。楽しかったよ、またぜひ、食事しよう」

 にこやかに微笑む彼に、まーが差し出したのは手土産。
 高級そうな黒色の小さい紙袋の中身はチョコレートだ。

「どうぞ。副社長が今日は大変申し訳なかった、と」
「お。ありがとう。むしろオッサンとの食事より楽しかった。よろしく伝えといてな」

 彼が乗り込むと、タクシーの扉が自動で閉まる。
 窓を開けて、ゆるく走り始めた車内から手を振った彼が叫ぶ。

「楽しかったよー! また飲もうなー!」

 酔っているのか、いないのか。
 素面でもやりそうな性格だから、なんともいえない。

 笑顔でタクシーが見えなくなるまで見送って、やっと、肩の力を抜いた。

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「二人とも、おつかれ」

 彼女もやっと肩の力が抜けたのか、いつもの調子で欠伸をしながらわたし達をぽんと叩いた。

「お疲れ様でした」
「お疲れさま」

 ま、上々の接待でしょ。と今回の接待の評価をしつつ、まーは凝った肩を解すように回した。

「伊東は車通勤でしょ? 代行で帰るの?」
「あ、いや、今日は会社に置いたまま帰ります」
「そ。じゃああのタクシー使っていいよ。とりあえず伊東がどうするか分かんなかったから2台呼んだんだけど、あたしと愛羽は同じ方向だから一台で帰るわ」

 店の前の路肩にハザートをつけて停車しているタクシー。
 あれも、うちが呼んでもらったタクシーだとは。相変わらず抜かりない。

「俺今から呼ぶんでいいっすよ、お二人とも先使ってください」
「うるさい。酔っ払い。3人も接待役居て喋るタイミング図れないからって酔うまで飲むな馬鹿め」
「う……ば、ばれてました?」
「バレバレ。さぁ乗った乗った。領収はちゃんともらうんだよ?」

 バツの悪さを隠すためか、それとも本当に酔いが回りすぎて辛いのか、比較的素直にタクシーに乗り込んだ伊東君は、窓越しに頭をさげて、タクシーを発進させた。

 手を振って彼を見送ったあと、わたしはまーを見上げる。

「誰と誰が同じ方向だって?」

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 見上げる、というよりは、睨み上げる。の方が表現は正しい。
 だって、ここからまーの家とわたしの家を一台のタクシーで回るとなると、遠回りになる。
 だから伊東君に言った言葉は嘘だ。

 何かあるとピンときて、彼女のやる事に口出しせずに伊東君を見送ったわけだが……。

 彼の乗ったタクシーが見えなくなった瞬間、両手を顔の前で合わせてこちらを向いたまーの姿には、嫌な予感しかしない。

「ごめん、今から二軒目行くから付き合って……!」

 あぁぁ……やっぱり……そういうことなのね……。

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「だって! 優一が二人でとか言うんだもん! 嫌じゃん二人とか!!」
「なんで? 結構いい雰囲気だったじゃない」
「ハァ!? 嫌よ! あたしのキャリアの邪魔にしかならないし!」
「でも二人って指定されてるんでしょ?」
「大丈夫よ誘われた時にちゃんと愛羽も一緒なら行ってもいいよって言っといたから!」
「勝手に……」

 だって考えてもみなさいよ? とまーは柳眉を釣り上げて、わたしの鼻先に指を突き付けた。

「この後二人でどっか行って、誰かに見られてみなさいよ。あたしは向こうの会社の専務の女ってレッテルが貼られるのよ? それはもうあたし個人の力で積み上げたキャリアじゃない。ただの枕営業で契約とった女ってレッテルよ!」

 要らないわよそんなの! 願い下げよ! と叫ぶまーをなんとか落ち着かせる。
 まぁ確かにそんな事態にならない保証もないし、仕方ない。
 二軒目誘われた時点で断るつもりはないが、勝手に決められていた事が気に食わない。

「いいなぁ、伊東君は帰れて」

 当てつけのように帰宅の途についた彼を羨むと、今度なんか奢るから、と拝み倒された。

「それに今日の伊東使い物にならないじゃない」
「まぁ……確かに。やっぱり接待は2人がベストね」

 でないと、会話から人があぶれる。その結果が、酔っ払った伊東君だ。

「まぁ体調不良ってのもあるだろうから、大目に見るけど」

 ふん、と鼻を鳴らす彼女に肩を竦める。

「で? どこ行くの? 二軒目」
「酔に行こうかと思って。あそこなら融通きくし」

 なるほど。いい案だ。この間酔に行きたいねなんて話をしていたし、ちょうどいい。
 大きく頷いていると、携帯電話を取り出しながらまーが、思いついたようにこちらを見る。

「あ! シャムの方がいい?」

 すずちゃん居るから、とまーは気遣いから提案してくれたのだろうけれど、わたしは慌てて首を横に振る。

「だめだめだめ。赤城さんみたいなタイプとわたしが一緒に居ると絶対妬くから!」
「え?」
「こないだ蓉子さんとシャム行ったときでも、妬いたんだから雀ちゃん」
「……独占欲意外と強い?」
「超強い」

 へぇぇぇ意外~、とまーは愉しそうに笑って、酔に電話を掛けた。

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