※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 31 ~
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「え、まって、すげ可愛いんだけど」
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赤城さんはそう言うが早く、わたしへと座椅子ごと、ずり、と体を寄せてきた。
「愛羽さん、この後暇かな」
「やめんかこの猿! そーゆー所は直ってないみたいね!」
「そーゆー所ってなんだよ!」
向こう側から座椅子を引っ張り、元の位置まで赤城さんごと戻したまーの怪力にも感心するけれど、それ以上に赤城さんが楽しそうにしているので、まーの無礼もなんだかんだ許せるか。
接待というのは、良好な関係を築くと同時に、先方に楽しんでもらうことが目的だ。
良好な関係というのはすでに形成されているようだし、後者の方も問題ないみたい。
「俺、愛羽さんに料理取り分けて欲しいな」
「はい。よろこんで」
こうもあからさまに、”好意あります!”とビシビシ伝えてくる人もなかなか珍しい。下心はあるんだろうけれど、かえって清々しくて好感がもてる。
差し出された取り皿を受け取って、わたしは取り分ける用の箸を手にとった。
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「はい、どうぞ。お待たせしました」
「ありがとー」
「合コンじゃないんだから、やめなさいよ。専務なんでしょ?」
若干白い目で、元カレをみるまーに、赤城さんは言い返す。
「俺は一人の男として普通にお話してるんですー」
「あ、もうムカつくコイツ調子にのって!」
「うーるせ。愛羽さんごめんねー、真紀ちゃんの分も取り分けてもらっていいかなぁ?」
手を伸ばし、まーの前にあった取り皿をわたしへと差し出す赤城さんは、なんだかんだ優しいようで、自分の分の料理が取り分けられたからといって食べ始めなかった。
接待をしていると、意外と、マナーのなっていない大人がいることに気付かされる場面は多いのだ。
しかし彼は、気さくな雰囲気を纏ったままに、場を仕切っているのだからスゴイ。
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失礼ながら膝立ちになって、まーの分、伊東君の分、自分の分と料理を取り分け終わると、赤城さんは両手を合わせた。
「いただきまーす。うまそー、俺腹減ってたんだよね」
どうやら、彼は完全に、ここをプライベートな食事会と定めてしまったようで、専務の威厳の欠片も見当たらないくらいにラフに、食事を始めた。
ゲストがその態度だと、こちらとしても多少力を抜く必要がある。
ちらと目配せを3人で交わしたあと、両手をあわせた。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
3つの声が重なったあと、わたしは箸を手にとった。
「ねぇ、優一、これって合コンなの?」
「丁度2対2だしな。いいんじゃね?」
「そこは否定しなさいよ」
珍しくまーが振り回されていて、彼女の顔に苦笑が浮かんでいる。
いつもわたしがまーに翻弄されているので、あの顔は珍しい。
彼女もどこか戸惑っているようで、いつもの調子になれそうでなれない、そんな微妙な雰囲気を感じた。
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赤城さんはどうやら、かなりフレンドリーなタイプの人間だったようで、わたし達のことを下の名前で呼び、更には自分の事を下の名前で呼ばせようとしていたのだが、流石にそれは辞退した。
代わりに、まーが嫌がらせのように「ゆーくん」と猫撫で声で付き合っていた当時の呼び方をするようになり、この場が余計、合コンぽくなった。
わたしが経験した中で一番和やかで、フレンドリー極まりない雰囲気の接待は特に問題なく進み、デザートを食べ終えたわたし達は程々に会話を楽しんだあと、そろそろだろうかと居住まいを正した。
「赤城さん」
ゆーくんは流石に恥ずかしいからマジで止めろと言われても決して止めなかったまーが、彼を苗字で呼んだ。
それをきっかけに、お酒が入って赤らんだ赤城さんの顔が引き締まった。
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