隣恋Ⅲ~戦場へ~ 25話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 戦場へ 25 ~

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「知りたい?」

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 にやけた顔を隠しもせず、まーは意地悪く言う。
 そんなの、知りたいに決まっているじゃないか。

 無言で頷くわたしに、まーは「いひひひ」と奇妙な声で笑う。

「知りたいー?」
「知りたいってば。焦らさないでよ」

 もう! と唇を尖らせると、まーは愉しくてたまらないと言ったふうに笑い声を立てた後、こちらに携帯電話のディスプレイを向けた。

「バイトないけど学校が5時までありますだって。今の一瞬でもしかしたら木曜の夜からオタノシミ連泊できるかもと予想していた愛羽サンざまぁ」
「ぐ……」
「図星さらにざまぁ」

 ハッハッハと手を叩いて笑う彼女に、言い返せる言葉がない。
 だって確かに、そういう計画を考えてしまっていたのだもの。

 根底に疼くものを抱えたこの体は、一秒でも早く雀ちゃんとの夜を過ごしたいと訴えている。
 表面にこそその欲望は出ていないものの、きっと、家に帰って彼女の腕に包まれてしまうと、途端にその欲望は噴き出すだろう。

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「やっだー愛羽サンたら、えっろー、どえろだわー、あと何日でホテル行けるとか計算しちゃってぇー」
「ぅぅうるさいなぁ!」
「ほんともうそんなエロエロ星人の代わりに金曜日学校終わってから日曜日まで予定空けといてねって優しい真紀さんがアポ取っといてあげるからー。ほんとにもーえろいんだからー」

 素早く右手親指を動かしてフリック入力をしつつ、左手では奥様よろしく縦向きに「やっだー」と手を振るまーの言葉に、赤面が濃くなる。

 なんていうか、誇張はされているんだけどわたしが考えていた内容については正解しているから、言い返せない。

 しかも、ただのデートではなくて、明らかにそれ目的で行くホテルだから、恥ずかしさ倍増だった。

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「ハイ、送信と。……てことだから、愛羽は来週月曜休みでいい?」

 それまでの揶揄う口調とは打って変わって、通常のトーンに戻ったまーが首を傾げた。
 月曜? とこちらまで首を傾げそうになるけれど、考えてみれば、わたしが金曜日に休みを貰ったって、雀ちゃんは学校があるので家でゆっくりしているしかない。

 まぁそんな有給の休日もいいだろうけれど、今回ばかりは、ホテルでの行為から筋肉痛になることはきっと……確定だろうから、その後に有給休暇をもってくるほうが最良と言えよう。

 ていうか、そんな事までしっかり頭を回してくれるだなんて……なんかもう色々な面において、上司の鏡というか友人の鏡というか……。

「お願いします」

 頭をさげると、まーは軽く「おっけー」と言いながら廊下へと向かい始めた。
 化粧ポーチを手に、後を追いながら、赤い顔を手で扇ぐ。

「じゃあ明日は伊東に休んでもらおうかな」

 確かに、あの面子の中で一番疲れているのは伊東君だろう。
 今夜の接待もあるし、彼に一番最初、有給休暇が与えられるのはなんだかほっとする。

「その後、あの二人同日で、次あたしで、愛羽か」
「それなら、明日、伊東君ともう一人休ませてあげたら?」

 そのくらいならカバーできるし。と進言すると、まーは顎に手をあてて考えたのち、それもそうかと頷いた。
 さすがに、まーと伊東君が同日に休みを取られると結構辛いから、申し訳ないけれど最も疲れている二人は別日に休暇を取ってもらう。

「その後、まーとあと一人休んだらいいし。皆疲れてるんだから早めに休ませてあげなきゃ潰れちゃうわ」
「あらら、金本先輩はオタノシミの予定が立ったから体力回復ですかぁ?」
「そんなんじゃないわよ」

 苦笑しつつも、下世話なまーの脇腹にドス、と突きを食らわせておいた。

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 デスクに戻って、明日の横田君と神崎さんの予定をチェックしてみると、神崎さんに休暇を与えられそうなスケジュール。そして明後日は上手い具合に横田君のスケジュールが休んでも支障なさそうな様子。

 早速、神崎さんに連絡をとっているまーを横目に、自分のデスクにあったコーヒーのカップを片付けに行く。
 戻ってくると、まーが伊東君に明日有給休暇だと話したようで、大きくガッツポーズをしているところだった。

「ぁ、ごめん。金本さんは月曜なのに喜んで」

 わたしを見るなり、上げていた手を下におろす伊東君。
 どうやら、自分が先に休みをとってしまうのを申し訳なく思っているようだ。

「愛羽は、月曜の方が何かと都合いいもんね?」

 まーが意味有り気に言って伊東君の前で揶揄おうとするけれど、その手には乗らない。

「ええ。三連休でリフレッシュしてくるわ」

 ふふん、と笑って躱した。

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