※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 19 ~
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やっぱり接待か……。
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食堂からデスクへ戻ってきたわたし達3人はとりあえず、定時までは各自行動ということでバラけた。
軽く嘆息したわたしは廊下へ出ると、お手洗いに向かう。
個室に入り鍵を閉めて座り、ようやく、大きく溜め息を吐いた。
――お昼ご飯の時に気を抜いて、もしかしたら接待なしで帰れるかも、とか思っちゃった自分を呪いたい。
なんかこう、自分一人で勝手に期待して、自爆した。
自分で自分のダメージを倍増させてしまった感じだ。
もう一度深く溜め息を吐いて、満腹になって湧き上がってくる眠気に抗いつつ、ポケットに入れていた携帯電話を取り出した。
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昨日雀ちゃんにメッセージを送ったあと、携帯電話を覗いていない。
電源を入れて、起動するまでの待ち時間、目を閉じる。
――あぁ……まずいわ、これ、このまま寝れる……。
目を開けなきゃ、と思うものの、なかなか瞼が開かずにカクンと首が落ちる。と、それと同時に誰かがトイレに入ってきたようで足音に、はっとする。
――まずい、本当に寝てた。一瞬だけど、意識とんでた。
焦りつつ、わたしはすでに起動が終わっていた携帯電話に指先をあてた。
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受信していたメールに目を通してから、一応、雀ちゃんに接待が入ったことを連絡しておこうとメッセージを作成する。
『今夜、やっぱり接待があって遅くなると思います。ごめんね』
と送信して、溜め息をついた。
きっとこの知らせは、彼女をがっかりさせるんだろうなと思いながら。
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お手洗いからデスクに帰ってくると、伊東君が隣のデスクで舟を漕いでいた。
普段ならば背中をバチンと叩く所業だが、今日ばかりは寝かせてあげたいと思ってしまう。
しかし、残業していようが、徹夜していようが、居眠りは駄目だ。
うちの会社には仮眠室なんて大層なものがない代わりに、どうしても無理なときは、空いている会議室に行って仮眠をとってもらう暗黙のルールがある。
デスクで他の人が転寝や仮眠をしていれば、その眠気は他の社員に移ってしまうからだ。
それは生産性も落ちるし、士気も下がる。
気の毒に思うけれど、仕方ない。
わたしは椅子に座ってから彼に手を伸ばした。
「伊東君」
左肩に触れて、揺らしてみるけれど、まだちょっと反応が薄い。
結構本気で寝る寸前じゃないの。
本気で寝てしまう前に、どうにか起こして、会議室に放り込まなければ。
「伊東君、起きて」
肩から二の腕に手を滑らせて掴む。太くて掴みきれないその二の腕を押したり引いたりして彼をぐらんぐらんと揺らすと、やっと意識が戻ったようで、シャンと背筋を伸ばす彼。
「……寝てた……」
自分がいつの間に寝てしまったのかも分からないようで、呆然と事実を口にした彼に苦笑する。
先程わたしもトイレで同じことをしていたので、気持ちはよぅく分かる。
「急ぎの仕事がないなら、会議室使ったら?」
「んー、や、大丈夫。ちょっとだけ急ぎがあるから、やらないと」
引き出しからブラックガムを取り出して3粒まとめて噛み始めた伊東君に苦笑して、わたしも自分のデスクに向き直った。
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急ぎという訳ではないけれど、今日全く仕事をしない訳にはいかない程度に、わたしにも抱えている仕事はある。
集中力がいつもの5分の1程度しかなくて効率が悪いことこの上ないが、やるしかない。
ときおり目頭に指を押し当ててぐりぐりと揉みつつ、わたしはパソコンのキーを打ち込んだ。
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