隣恋Ⅲ~戦場へ~ 12話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 戦場へ 12 ~

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 深い深い深ぁぁい溜め息を吐いて、椅子に座っていた伊東君が項垂れた。

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 それでも食べかけのバーガーを片手にもっているのは、やはり食い気に負けているのだろう。
 理性と三大欲求の一つの闘いの光景に苦笑を浮かべて、立っているわたしの肩よりも下にある随分セットの乱れた頭をぽんぽんと叩いた。

 まさか、自分が席を外した隙に後輩がデータを消去するだなんて、誰が想像できようか。

 それでも、後輩のせいだと一点張りするのではなくて、自分の責任だと潔く落ち込んでいる彼には、慰めにはならないだろうけれど、くしゃくしゃとその頭をかき回してから、わたしはワクドナルドの袋へと手を伸ばした。

 残っていたドリンクはわたしのキャラメルラテとアイスコーヒー。
 横田君も神崎さんもまーもドリンクを手元に置いているので、このアイスコーヒーはきっと、伊東君のものだろう。

 彼の近くにカップとストローを置いて、わたしは自分のドリンクを手にとった。

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「それで、こんなふうにお食事タイムがあるってことは、大丈夫そうなのよね?」

 来てみて気付いたのは、あまりこの場が殺伐としていないことだ。
 どうにもなりそうにない事態ならば、皆食事は後回しにするし、食べたとしてももっとぱぱっとどうにかなる栄養補助食品とかゼリータイプの高栄養食品とかそのあたりだ。

「いやワックは好条件が揃って、いつかはやってみたいランキング3位の会社でワクドナルドパーティーが出来ると思ったからよ」

 ……なんなのよそのランキング。

「まぁこれだけ食欲をそそる匂いのするもの、そうそう会社には持ち込めませんしね」

 眼鏡を押し上げ、いつの間にかふたつめのバーガーに手をのばしている横田君。どちらかといえば細身の彼も、食べる量は男の子なんだなぁと感心する。

「ちなみに2位と1位はなんですか?」

 可愛らしく首を傾げている神崎さんは冷めたバーガーを半分ほど食べ終わったところだ。

「2位は社長の椅子に座る事。1位は全員参加でかくれんぼ」
「4位は?」
「裸で廊下を全力ダッシュ」

 ガフッ、と男二人が同時に噎せた。

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「……女性がそういう事を言うものではありませんよ」

 神崎さんに背中を擦られながらなんとか回復した横田君がちょっとだけ顔を赤らめて、まーを窘める。

「え~? 横田って兄弟は?」
「兄がひとり」
「ほう。伊東は?」
「弟が」
「これだから女慣れしてない男は」

 やれやれ、と外国人ばりのジェスチャーで両手を上げて肩を竦める彼女は、びし、と彼らを指差した。しかし、わたしと神崎さんを挟んで男二人が離れた位置に居るせいで、まーは両手でそれぞれを指差すから、なんとも間抜けなポージングにしか見えない。

 なんとなくカマキリの威嚇っぽいポーズだなと思いながら、

「女に幻想を抱きすぎ」

 というまーの言葉には頷いた。

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「ほら、愛羽だって頷いてる。女は皆マッパで廊下ダッシュしたい訳よ」
「ちがうちがうちがう! そこに頷いたんじゃないから!」

 げっほ! とまた伊東君が噎せているのでその背中を擦りながら、強く否定しておく。
 誰も彼も女性が皆、まーみたいに危ない思想をもっている訳ではない。

「廊下ダッシュしたくないの? 神崎」
「えーと、運動は苦手なのでダッシュはしたくないですけど、家では暑い日なんかほぼ裸ですねぇ」
「ほらキタ!」
「ちょっと神崎さん!?」

 まさかのカミングアウトだ。
 ていうかここに男性二人も居るのにそんな爆弾発言してもいいのか。

 同志を得て喜ぶまーと、焦るわたし。

 その傍で、両手で顔を覆った伊東君が情けない声で訴えた。

「もうやめてくれぇ……俺の中の女性像が崩れていく……」
「同感です……」

 顔こそ覆って隠していないものの、横田君は赤らんだ顔を背けて頷いた。

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