※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 11 ~
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翌日のプレゼンは13時からの予定だ。
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あと15時間余りで修復が可能なのか。
発案や企画練り直しなども含まれるけれど、1ヶ月かけて作り上げてきたデータ。
それが消えたとはどういう事なのかと状況説明を求めると、真っ先にまーが「ふぉごむむん、ふぇほー」と説明にもなっていない説明をスタートさせたので手で制した。
横田君が軽蔑の目付きで部長を見つめていることに苦笑して、食事が終わってからでいいよ、と肩を竦めた。
見兼ねた神崎さんがその可愛らしい声を存分に発揮して、バーガーが冷めてしまうのも構わず説明をしてくれる。
さすが、食い気に負けた男共(と、女も一人混ざっているけれど)とは違う。
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彼女の説明によると、取引先に渡す詳細なデータなどの含まれる所謂、”資料”と呼ばれるデータは大丈夫だったそうだ。
すでに記憶力のズバ抜けて良い伊東君とまーが二重チェックをかけて、大丈夫だという結論に至ったらしい。
問題の消えたデータは、その”資料”を説明するときに必要なパワーポイント。
バックアップも含めて、綺麗に消し去ってくれたらしい。
「……」
額に指を押し当てて、俯く。
なんでデータを消してしまったのか、なんでバックアップにまで手を伸ばしたのか、それは謎だ。だけど消してしまったものは仕方ない。
……仕方ない、と思い込むことに努力を費やさねば、腹の底からマグマのように湧きあがる怒りを抑えられなかった。
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大きく息を吸って、吐いて、顔を上げた。
「で。データ消した犯人は確実に多田くんなの?」
「それはもう、間違いなく」
まーがドリンクをテーブルに置いて、袋の中からナゲットを取り出しつつ頷いた。
「あたしがさぁ、明日のプレゼン資料がいい教育材料にもなると思って、伊東にお願いしちゃったのよねぇ……」
名前が出た伊東君の方へ顔を向ければ、彼は心底すまなそうに眉尻をさげた。
「明日、多田に説明する時間とるくらいなら、今日軽く残業させて、最終チェックとか準備時間を確保したいと、自分本位な考えが湧いて……で、残業申しつけたのが間違いだった……」
なんでも、残業を言い渡したときにものすごく嫌そうな顔をした多田くんに、「仕事早くできるようになりたいだろ?」と青筋たてた笑顔で伊東君が残業を強行したらしい。
パワーポイントを使って、事前に印刷していた”資料”を見せながら説明していたのだが、「ちょっと伊東さん、すみませんこの事で……」と伊東君が、他の社員から助けを求められ、席を外した隙に、根こそぎデータを消されたらしい。
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「バックアップのハードディスクもUSBメモリも繋いでた俺のパソコンを使って説明してたのが失敗だった……」
「でもそれって明日の準備で全部のデータ照合してたんでしょ? 仕方ないわよ」
大人数のチームで企画を進め、作業編集を進めていく場合。
基本的にデータを統括して保存するが、もしかしてどこかに誰かの編集が加えられているかもしれない。
上書きを恐れてバックアップに直接編集を加えて、その事の伝達を忘れた人がいるかもしれないし、いつものように編集専用にしていたデータを書き換えているかもしれない。
チームの誰でも編集できるルールにしているのがよくないのかもしれないが、そうでもしないとこの企画は終わりそうにないくらい、果てしない”資料”作りがあったのだ。
過去、見せているパワーポイントの画面と取引先の方の手元の資料のデータが違う。そういう事件があって、取れそうだった契約が1つ潰れてしまったこともある。
許せるようなデータ間違いならいいけれど、そうでない間違いを取引先の人の目に触れさせては、ミスのたった1つでも命取りになるのだ。
たった1つ。
されど1つ。
間違いは間違いで、ここは仕事をする場所。
そしてプレゼンをする会議室は、戦場なのだ。
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