※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 9 ~
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「なぁ、金本ちゃん」
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夜間入館用のノートにわたしが書いた所属部署と名前。その横には、警備員さん二人のどちらかに、入館許可のハンコをついてもらわなければいけない。
本当は、社員証を見せて、所属部署や名前に間違いがないかを確認してからハンコをもらうんだけど、ここまで仲良しになると、顔パスだった。
おじさんがゆったりとした動作でハンコを朱肉に押し付けながら、ニタリと笑う。
「外のイケメンは彼氏かい?」
あー……まぁ、ボーイッシュな出で立ちな上に帽子被って暗い中に立ってるもんだから、男だと勘違いしている。
だけど、わたしの恋人っていうのは間違っていないし、訂正するのも面倒だから、カウンターに肘をついて顎を手のひらで支えて、にっこりと営業スマイルを浮かべた。
「なんだいなんだい、嬉しそうな顔しちゃって」
「夜のドライブデートしてきちゃった」
「かーっ、惚気るねぇ。ハンコ二つ押しといてやるよっ」
ひとつでいいのに、ポポンとハンコをついたおじさんの視線がスィ、と建物の奥へと動く。
彼の視線を追ってわたしもそちらへ顔を向ければ、荷物持ちとして来てくれた伊東君が向かってくるところだった。
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「んん?」
伊東君の名前は夜間入館ノートになかったから、彼は一度も帰宅していない。ジャケットは羽織っていないので分からないけれど、ネクタイが今日見た柄のままだから、きっとそうだと思う。
夜間入館をしていないという事は警備員のおじさんの前を通っていないということ。
おじさん達はその日ノートに名前を書いた人物の顔は大体覚えているので、記憶にない顔がこちらへやってくるのが不思議だったのだろう。
首を傾げる警備員さんに、伊東君は残業のまま徹夜だと教えてあげると、気の毒そうな表情を浮かべた。
「兄ちゃんお疲れさん」
「いつもご苦労様です」
警備員のおじさんの労いに、営業スマイルを浮かべた伊東君の顔に、疲れが滲んで見える。
まぁ、わたしが定時で帰宅してからずっと働いていたことを思えば、疲労も滲むというものだ。
「お疲れさま。大丈夫?」
「金本さんもお疲れ。悪いね、買い出しまでさせちゃって」
「ううん、それは平気」
首を振るわたしを見たおじさんが、ニタリと笑ったけれど、見なかったフリをして、扉に手を掛けた。
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外に出ると、雀ちゃんが車のボンネットに寄り掛かって立っていて、音で気が付いたのか、こちらに顔を向けた。
うーん、確かにあの出で立ち、男に見えなくもない。
「ごめんね、待たせちゃって」
「いいえ」
わたしに笑顔を向けてくれた彼女の視線が、後ろをついてきた伊東君に向けられる。
ちょっと驚いている様子なのは、まーが来ると思っていたからだろうか。
「こんばんは」
先に口を開いたのは雀ちゃんだった。
「こんばんは。すみません、うちの買い出しを手伝って頂いたみたいで」
「いえいえ、とんでもないです、このくらいしか出来なくて。お仕事、頑張ってくださいね」
恋人と同僚が言葉を交わしている状況に、不思議な感覚を味わいながら、後部座席から3つの袋のうち重たい順に2つを伊東君にお願いして、1つを自分でもつ。
「先に行ってて」
と伊東君に告げると、彼は雀ちゃんに会釈をして小さな扉の向こうに姿を消した。
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わたしが後部座席のドアを閉める間に、助手席から通勤鞄をとってくれた雀ちゃん。
鞄を受け取り肩にかけると、わたしは手を伸ばして彼女の頭をキャスケット越しに撫でた。
「上手に挨拶できました」
「これでもバーテンダーやってるんでその辺は出来ますよ」
まーが来るとばかり思っていて、違う人物がひょっこりやって来て、咄嗟にあの挨拶が出来れば上等だ。
「じゃあ、……行くね」
「はい。お仕事、がんばってください」
ちょっとだけ寂しそうな目をする彼女に、キスしたい衝動が込み上げるけれど……わたしは自身の口元へ手をやって、唇の動きを隠す。
警備員のおじさん達に読唇術の心得はないだろうけれど、念のため。
「監視カメラがあるからキスもハグもできないの。ごめんね?」
「……頭撫でるのはいいんですか?」
カメラの存在を知らされて表情を硬くする彼女に小さく笑う。
「送ってくれてありがとう。大好きよ、雀ちゃん」
「私もです」
「ん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
家に着いたら連絡してね、と手を振って、わたしは扉を開けた。
あの寂しそうに名残惜しそうにしている彼女が車に乗って走り去るまで待っていたら、きっと、随分時間がかかってしまうだろうから。
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