※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 8 ~
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――あぁ……着いちゃう……。
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いつもの見慣れた会社が視界に入って、わたしはそっと溜め息をついた。
「どこに停めます?」
「んーと、ロータリー入っちゃっていいよ。どうせこの時間で残ってる人なんてほとんどいないし」
ちょいちょい、とロータリーへの進入口を指差しながら、鞄から携帯電話を取り出す。
さすがにあの3袋の食糧をひとりで抱えては行けないので、荷物持ちを呼び寄せる必要があった。
カタンカタンと車道と歩道の段差を乗り越えて、ロータリーへとゆっくり入った車は、唯一灯りの点っている小さな扉の前で停車した。
わたしが普段出社したときに通過する大扉はこの時間では閉じられていて、横にある通用口の鍵だけが開けられている状態なのだ。
この小さな扉を抜けるとすぐに警備員さんの詰所があって、いつも二人控えている。
ちなみにわたしもまーも、ここの警備員さんとは仲良し。
帰りが遅くなった日は必ず警備員さんの前を通るので、残業が多いわたし達は自然と仲良くなったのだ。
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「ありがとう。運転お疲れさま」
労うように彼女の頬を撫でて、「荷物持ってもらう人呼ぶから待ってね」と告げて、携帯電話を耳にあてた。
コール音をききながらシートベルトを外して、車を降りる。
後部座席の扉を開けて、ドリンク類の入っている袋を探って、中からコーヒーを二つ取り出した。
いつの間に車を降りて傍にやってきたのか、雀ちゃんがわたしの後ろに居たので、肩で携帯電話を挟みながら、それらを手渡す。
「ごめん、ちょっと持ってて」
警備員さん二人にあげる予定なんだけど、そのことを説明する間もなく、コール音が止んで、まーの元気な声が耳に大きく響く。
肩で耳に押し付けているから、余計、キーンと耳にいたい音量だ。
『ご飯ですかぁー!?』
「ぁもううるっさい。うれしいのは分かったから誰か一人下りてきて。一人じゃ持ちきれないの」
『ちなみに何袋?』
「3袋」
『じゃあ男ね』
どっちか行ってこーいぃ!! と遠くで叫んだ声が聞こえたので、わたしは顔を顰めて通話を終了させた。
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「そんな顔しなくても」
クスクスと眉尻をさげながらも笑う雀ちゃんには、きっと電話の相手がまーだと分かっているんだろう。
仕方ないひとだなぁ、みたいな顔してるけど、だって。うるさいものはうるさいもん。
「これは?」
「あ、それ警備員のおじちゃんたちへの差し入れ。こっそり買っておいちゃった」
「会社のお金ですしね」
「そゆこと」
後部座席の扉を閉めてパンツのポケットに携帯電話を滑り込ませる。
悪戯ぽく目を細めた雀ちゃんからコーヒーを両手で受け取って、扉前へと近付いた。
「両手、塞がってますね」
後ろから可笑しそうな声がかかって、むぅと頬を膨らませた。
確かに扉を開けなきゃいけないのに両手に一つずつカップを持ったのは間違いだったかもしれない。
でも、Mサイズのカップなんて片手でふたつも持てないもん。
「雀ちゃん開けてください」
「はいはい」
「ありがとう」
小さい割に、鉄製で重たい扉をひょいと開けてくれた彼女の顔はちょっぴり意地悪。だけどその目は、いつもわたしに「可愛いなぁ」と言う時と同じ色をしていた。
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わたしがくぐった扉が外から静かに閉められたところを見ると、雀ちゃんは入ってこないようだった。
いや、入ってこられても、社員じゃないのでちょっと困っちゃうからいいんだけど。
なんというか、一から十まで説明しなくても、自分で考えて分を弁えている子だ。
あの若さで、と感心しながら警備員の詰所を覗く。
小さなガラスの窓の向こうには、おじさん二人が椅子に座ってくつろいでいた。
「こんばんは」
「あぁやっぱり金本ちゃんか」
いくつもある小さな画面は監視カメラのリアルタイム中継。
表の監視カメラにわたしが乗ってきた車も、降りてごそごそやってる姿も映されていたのだろう。
見覚えのある姿に「もしや?」と人物のアテをつけていたおじさん達は、ガラス窓を覗き込んだわたしに、笑顔を見せてくれた。
「これから仕事なの。で、これ、差し入れ」
「おお、すまんな。ありがとう。……こんな時間から仕事かい?」
「何人かここ通ったでしょ?」
コーヒーをふたつ手渡して、小さなカウンターに備え付けられている夜間入館用のノートに所属部署と名前を書く。
わたしの名前の上の欄には横田君と神崎さんの名前があった。
その二人の名前をペンの先でコンコンと突いて示してみせると、緊急事態と分かっているのかいないのか、おじさんは「ほぉ」と顎を撫でる。
まぁ、彼らの仕事はこのビルの警備だから、夜間出社がどれだけ異常事態なのか理解できなくても仕方のないことかもしれなかった。
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