※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 6 ~
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ファーストフード店の灯りが煌々と挿し込む車内で、わたしは恋人にキスをした。
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僅かに離した唇。その距離は小指の爪ほどで、囁くような小さい声でも相手にはしっかりと届く。
「1回だけで、いいの?」
雀ちゃんは自分の1番欲しいものの100分の1お願いだと言った。
真意は違うと思うけれど単純に計算すると、キス100回をご所望なのだ。
「っ」
小さく息を飲んで、雀ちゃんがわたしの手を強く握り返してくるのはその合図なんだろうけれど……だめ。
「ちゃんと、口で言って?」
わたしのキスが欲しいんだって、その口で。
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「もう1回、してください」
言葉の直後、唇を重ねながら”あと一回でいいの?”と考えたものの口には出さなかった。
唇をそっと離して、至近距離で微笑んでみせると、彼女はわたしから距離をとりつつ、今更に顔を赤くした。
「あ、煽らないでください」
「ふふ、ごめん、つい。雀ちゃんが好き過ぎて」
「それは……うれしいですけど」
照れ隠しのようにドリンクホルダーに収めていたホットコーヒーをぐびりと飲む雀ちゃんに”好き”を募らせながら、わたしは財布と携帯電話を仕舞った鞄の中から化粧ポーチを取り出した。
家でのキスと、ここでのキスで、きっと口紅が所々薄くなっている。
気付かれる心配はないと思うものの、まーに気付かれると面倒だし、揶揄われても煩い。
今夜のまーのテンションだと何をしでかすか分からないので、取り出した口紅をさっと塗る。
ポケットティッシュを一枚取り出して、コーヒー片手にこちらを向いて呆けたような顔をしている彼女の口元へと伸ばし、ほんのり移っている口紅を拭いた。
「あ、意外と濃く移るのね」
ほら。と真っ白だったティッシュが紅色に染まっている部分を見せてあげると、雀ちゃんは何故か、真っ赤になった。
「?」
キスすれば口紅が移ってしまうのは当然だと思うんだけど……。首を傾げてみせると、彼女は前髪をガシガシと手荒くかいて、帽子を被り直した。
「出しますね」
「あ、うん。おねがいしまーす」
異様に大きな咳払いをして、雀ちゃんはドリンクホルダーにコーヒーを戻した。
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わたしは緩やかに動き出そうとしている車の助手席に座り直すと、シートベルトを締めて、雀ちゃんの口を拭ったティッシュを折りたたんで、端を唇で軽く挟んだ。
こうしてティッシュオフをすることで口紅の色ムラがなくなったり、口紅のもちが良くなるのだ。
使った面を内側に畳み直したティッシュ。捨てるところがないので、とりあえず化粧ポーチの中へと仕舞っていると、横から視線を感じた。
何の気なしに視線をあげてみると、ばちりと運転手さんと目があう。
ちょっと、あぶない。
「……まえ、見て運転してね?」
視線が合うと怯んだ両目がさっと前方へと向けられたのを確認して、小さく息をつく。
なんか、さっきから雀ちゃんが変。
キスする前まではふつうだったのに。口紅塗るのがそんなに珍しかったかしら? と内心首を傾げるけれど、まだ顔を赤らめたままの雀ちゃんの心境を正しく推測するには、ヒントが少なすぎてよく解らなかった。
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