※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 5 ~
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突然席から立ち上がった彼女の視線の先を追って振り返れば、店員さんが大きな袋を三つ抱えてこちらに向かってくるところだった。
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わたしも立ち上がってその袋を受け取る。
注文した商品の控えを読み上げる彼女にあわせて、わたしは自分の携帯電話のオーダーに目を通す。
全ての商品が照合されて、大きく頷いてお礼を告げる。
「大変お待たせして申し訳ございません。たくさんのお買い上げありがとうございました!」
さすが大手チェーン店と思うような接客態度と、笑顔に、つられるように笑みを浮かべて、「ありがとう」と番号札を返却する。
横から伸びてきた雀ちゃんの手がわたしから、二つの袋をとりあげる。
「ありがとうございました」
とこちらも丁寧なお礼を告げる恋人を連れて、わたしはお店を後にした。
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車に戻りながら大量の食糧に思わず笑みが漏れる。
「凄い量……」
「本当にこれ食べきれるんですか?」
「わかんない」
店内に居たときは二人の間にどんよりとした空気が漂っていたのだけれど、奇しくも愛想の素晴らしい店員さんとこの大量の食糧のおかげで、わたし達の表情は明るくなった。
大きな袋なので後部座席に置こうということになり、倒れないように食糧にシートベルトをひっかけて固定する。
忘れないうちにと、ドリンク類が入っている袋から、ホットコーヒーを取り出して雀ちゃんに差し出した。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。ありがとう」
店内で、明日の晩御飯を作っておいてくれると言った彼女に、お礼を言っていなかったことを思い出して、ぺこ、と頭をさげた。
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袋が倒れないように固定し終えて、後部座席の扉を閉めて、雀ちゃんは運転席、わたしは助手席へつく。
「ねぇ雀ちゃん」
「はい?」
エンジンを掛けてシートベルトを締めた彼女の手を捕まえて、きゅっと握る。
「わたし、雀ちゃんが大好きよ」
こんなところで、突然と思われるかもしれないけれど……。
心配と好意、そして精一杯のサポートをくれる雀ちゃんに、わたしが今返してあげられる事がこれしかなくて、今すぐに、伝えたかった。
「たくさん心配かけて、たくさん色んな事してもらって、たくさんわたしの為を思ってくれる貴女が好き。だけど、それらをしてくれるから好きっていうんじゃなくて、例え、貴女の行動がなくたって、わたしは雀ちゃんが好き」
今すぐにでも、抱き着いて、キスしたい衝動を堪えて、握った手に力を込める。
「こんなわたしだから、雀ちゃんが遠慮してたら釣り合いがとれないくらい、迷惑かけちゃう。だから、貴女がしたいこととか、して欲しいこととか、逆に嫌な事とか、教えてね……? 出来るだけわたしも理解できるよう、がんばるから」
だから、と言い掛けたわたしの口を、雀ちゃんの指が押さえた。
その表情は、ひどく真面目で、それでいて、優しげ。
包み込むような優しさを纏う雀ちゃんは、眼差しに少しの切なさを混ぜて、わたしの唇から指をそっと離した。
「愛羽さんが好きって思ってくれてるのは十分伝わってます。だから、困らせたい訳じゃない。私が今一番欲しいものを言えば、きっと愛羽さんは困ってしまうから……」
こちらを見つめていた視線が斜め下へと流れて、戸惑いを連れて、戻ってきた。
言葉を区切った彼女の心を汲み取りたくて、わたしは握っていた雀ちゃんの手を更に握り込んだ。
「私が一番欲しいものの、100分の1のお願い、なんですけど」
「うん」
キャスケットの下で、大好きなひとの二つの瞳が、小さく揺れた。
「1回だけでいいんで……今すぐキスしてください」
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